第76回全日本高等学校バレーボール選手権大会(春の高校バレー)が1月4日(木)に開幕する。細田学園高(埼玉)には、昨年11月から頼もしいスタッフが加わった。昨年度まで下北沢成徳高(東京)で監督を務め、多くの日本代表選手を育ててきた小川良樹氏が、エグゼクティブアドバイザーに就任。30年以上切磋琢磨してきた伊藤潔美監督とともに、春高への思いを語った。対談の第2回は、強化してきたブロックについて(第1回、第3回)
小川エグゼクティブアドバイザー就任後、力を入れてきたブロック
——エグゼクティブアドバイザーに就任し、まずはブロック練習に力を入れたそうですね
小川 我々世代の女子の指導者は、最初にレシーブ練習を教わるんですよ。ボール出しから教わって、先輩諸氏から徹底して「それがうまくならないと一流のチームはつくれない」「レシーブを教えられない指導者は先がない」と言われました。ボール1個分右、2個分左、そしてときにはフワッと打ったり。ほんとうに寸分違わず、変幻自在にボールを出せないとダメだと。だから、食い入るように指導者の方たちのボール出しを見てきました。マニアックにレシーブを語れるような方じゃないと、全国上位にはいないと思います。レシーブに関しては、我々世代は一言も二言も、三言もありますよね(笑)
伊藤 そうですね(笑)
小川 ただ、「女子はレシーブだ」とやってきたので、残念なことに誰もブロックのことを教わっていないんです。私もレシーブやスパイクは自分なりに学んできたことや考えもありましたが、53〜54歳のころに、「ブロックのことは全然教えていないじゃん」と思って。ブロックをよく知る方に随分と習いに行きました。
ブロックはトータルディフェンスの最初のプレーです。女子でもしっかり取り組まないと、いくらレシーブを練習しても、最終的には複雑な攻撃に対応できなくなり、後ろの守りが崩れてしまいます。そういう意味でも選手たちに落とし込めるぐらいのノウハウを持たないといけないと思って、成徳(下北沢成徳高)で監督をした最後の10年は、ブロックを基準にどうチームをつくるかを考えていました。周りからはあまり言われませんでしたが、優勝した2013年の春高は、要所要所でブロックがよかった。監督晩年に優勝回数が増えたのはブロックのおかげだと思います。
細田(学園高)は伊藤先生が鍛えてこられて、ディフェンスのいいチームです。ただ、個人技としてディフェンス能力を上げても、チームとしてブロックをきちっと戦術として落とし込まないといけません。ブロックで止まる、止まらないということだけではなく、ブロックと連動したポジショニングの考え方をきちっと伝えることが重要です。
今年度は身長が低くても、正しく教えておかないと来年入ってくる選手たちにきちっと伝ぱしてきません。身長が低かろうが、選手たちにきちっと今年1年間で伝えていくと、細田に文化としてブロックが根づいていくと思います。今はその基本に取り組んでいます。もともとあったレシーブ力にブロック力を合わせればどうなっていくんだろうな、と楽しみです。
【次ページ】ブロックがきちっとできることでこんなにチームができ上がっていく
レシーブ力をさらに伸ばすためにも、ブロックの成長は不可欠
伊藤 今までブロック練習はほんとうに1日の10分程度で(笑) フォームを確認するくらいでした。これまでは「小さいチームだからレシーブ練習をしたほうがいい」という感覚でしたから。ところが小川先生が来られて、ブロック練習だけで1時間以上やっていますね。それに加えてレシーブ練習も1時間。この二つでずいぶん練習の割合が変わってきました。
練習試合を見ていると、ブロックがちゃんとついたときは抜けるコースが少なくなってきていて、レシーバーがバタバタしていません。春高県予選決勝では苦しいときに何本かブロックが出ましたし、今までのうちではありえない点数が取れていました(笑) ブロックがきちっとできることでこんなにチームができ上がっていくとは気づきませんでした。女子はレシーブとつなぎ、という感覚をずっと持っていましたから。
小川 我々の世代はそうやって教わってしまったからね。
伊藤 ブロックで(ネットから)手が出ないんだから、そんなにやっても仕方がないだろ、と考えていましたが、変わりましたね。全国上位にいくポイントの一つなんだろうな、と思います。
——1時間の練習ではどんなことをされていますか?
伊藤 まずはブロックに必要なトレーニングから。それからブロックのフォームとステップ練習をします。そして実際にボールを使ってステップとフォームの練習をとことんしていますね。一生懸命やろうとはしているものの、まだ完全に身にはついていませんが、今までとは違って手がしっかり伸びてきて、上のほうでボールに触れるようになってきたかなと思います。手首もしっかり固まってきて、スパイクに対して負けないようになってきたかなと感じます。
——小川エグゼクティブアドバザーが考える、ブロックに必要なものとは何でしょうか?
小川 たくさん要素はありますが、いちばんは、「ブロックをちゃんとやろう」という気持ちではないでしょうか。
選手たちは小学生のときから「女子はレシーブ」と学んできています。跳んだ位置やフォームやステップ、どっちのコースを開けて、どっちを締めるという考えはありません。ただ跳んで、時々止まるというぐらいで。ブロック技術を身につけようという向上心も、教えていないので当然ありません。
まずは「ブロックはゲームの中でこういう役割を果たしている」「正しく跳ぶことはどういうことなのか」「それがゲームにどう作用するのか」と理解してもらわないと、一生懸命取り組めません。
逆に言うと、試合で負けたときになぜうまくいかなかったのか、という話になると、「ブロックがきちっとできていないから」となるべきところでも、「レシーブが悪かった」とボールが落ちたところを指摘することが多くて。その途中でブロックが雑だったと触れることはほとんどありません。でも、ブロックの手の出し方だったり、ボールが落ちるまでの過程が悪かったと気づいてもらうことは大事なことです。実際、そこまでこだわっているチームは、トップの2、3チームぐらいしかないのではないかと思います。
ただ、いかんせん細田は身長が低いので。小さいのであれば小さいなりにもうちょっとうまく指導できないかなと考えているところです。私は、背が高い選手たちでちょっと楽をしてきたので(笑)
伊藤 成徳のころより10㎝くらい小さいですからね。
小川 小さい子たちでどうやって相手に脅威を与えるのかは、今のいちばん課題で、頭を悩ませています。でも、男子では小さくてもうまくブロックがついてゲームをつくるチームはあるので。女子でも絶対にできるはずだ、と思います。今の主力が1、2年生なので、来年の今ごろはちょっと違ったかたちになるのではないか。ブロックがすごく強くて、後ろも落とさない嫌なチームになっている。そう思いたいよね(笑)
伊藤 「細田、随分変わったな」と思ってもらえるようになりたいですね(笑)
ブロック練習の成果もあり、春高県予選ではインターハイ県予選のリベンジ
——大きい選手にブロックを教えるのとはまた違った楽しさがあるのではないですか?
小川 おもしろいです。この5、6年は大きくて不器用な子たちにブロック練習をしていましたが、今の細田の子たちのほうがバレーは上手なので。でも身長がない分、どうやって教えようか、と。
やっぱりブロックは止められないとつまらないですよね。ただ、伊藤先生がすごく時間をかけてつくってきたレシーブのように、どこかでいいブロックが決まるようになってくると、楽しくなってくるだろうな、と思っています。そんなに止まらないから、今は楽しくないと思いますけどね(笑) もう少しすれば、ワンタッチを取る楽しさを覚えるかもしれないです。「相手が決まった!」と思ったスパイクにワンタッチを取れると、「よっしゃ!」という気持ちになってきて。「私は天才的なブロッカーだったんだ!」と思ってくれたらいいですね(笑)
練習試合を見ていても、圧倒されるのはまったくブロックが機能していないときです。そうなると案の定、後ろがだんだん拾えなくなってきて、チームが混乱状態になります。ブロックがしっかりしないから後ろのレシーブも混乱していると伝わってほしいけど、まだそこまでは選手の頭がつながっていません。でも、「ブロックによってこの大混乱が小混乱ぐらいで済むんだよ」とわかってくると、簡単にあきらめないという気持ちになって、後ろのよさも出てくるはずです。まあ、やり始めてまだ2ヵ月ですから(笑)
伊藤 さっきも言いましたが、もう3年分くらい練習をしていますからね(笑)
予選を突破し、握手を交わす伊藤監督(左)と小川エグゼクティブアドバイザー
取材/田中風太(編集部)
写真/山岡邦彦(NBP)
伊藤潔美(いとう・きよみ)
1959年11月3日生まれ/早稲田実高(東京)→早稲田大
小川良樹(おがわ・よしき)
1955年10月29日生まれ/早稲田大高(東京)→早稲田大
【伊藤潔美監督×小川エグゼクティブアドバイザー対談】
第1回・細田学園高のベンチに下北沢成徳高の小川良樹前監督!? 「もうバレーはないかな」から就任に至るまで
第3回・「どちらかが死ぬまで」コンビ継続⁉︎ 細田学園高のベテランタッグが描く指導者としての姿
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