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「どちらかが死ぬまで」コンビ継続⁉︎ 細田学園高のベテランタッグが描く指導者としての姿 【伊藤潔美監督×小川良樹エグゼクティブアドバイザー対談③】

第76回全日本高等学校バレーボール選手権大会(春の高校バレー)が1月4日(木)に開幕する。細田学園高(埼玉)には、昨年11月から頼もしいスタッフが加わった。昨年度まで下北沢成徳高(東京)で監督を務め、多くの日本代表選手を育ててきた小川良樹氏が、エグゼクティブアドバイザーに就任。30年以上切磋琢磨してきた伊藤潔美監督とともに、春高への思いを語った。対談の第3回は、およそ半年間現場を離れた小川エグゼクティブアドバイザーが考えていたことと、2人の未来について(第1回第2回

 

選手に声をかける小川エグゼクティブアドバイザー

 

——小川エグゼクティブアドバイザーは、昨年度かぎりで下北沢成徳高の監督を勇退後、半年ほど現場を離れていました。その間に考えることはありましたか?

 

小川 私は日本一になることばかり考えていたわけではありませんでしたが、成徳(下北沢成徳高)で監督をした最後の10年は、選手たちが「日本一にならないといけない」と思いすぎていて。ちょうど昨日、(荒木)絵里香や(木村)沙織たちと話していたときに気づいたことがありました。

 

 そのころより、最後の10年のほうが選手たちはすごくまじめで、あの子たち(荒木さんや木村さんら)がやっていた内容が「10」だとすると、最後の10年の選手たちは多分、倍ぐらいストイックに努力していたと思います。ただ、2人のように初めて日本一になったころの選手たちは「休みも多かったし、楽しかったよね」と言っていて。

 

 何が違ったのかを考えると、絵里香たちのころは、まだチームが成り上がりの時期だったんです。日本一になったことがないので、イケイケなんですよね。でも、最後の10年の選手たちは、例えば春高で3位になると、泣きながら卒業していました。私が「3位なんだからいいじゃん!」と言っても、「すごく悔いが残る」と言って。

 

 練習でいうと、もともとは朝8時ぐらいから始まっていたのが、最後の年は6時から始まっていましたから(笑) なぜこんなに早いのかと考えると、選手たちがどんどん時間を早くしていたんです。一生懸命練習することはいいことですが、チームは追い込まれていたし、私もそれに合わせて相当のめり込んでいました。

 

 少し外から見ていて、もっとバレーボールが好きという気持ちを前面に出してやれたら、と思いました。「正しいことを正しく取り組む」ことはもちろん大事だけど、絵里香たちのように、もっとバレーボールが好きで、楽しく勝つほうがいいよな、と。最後の10年に関わった選手たちに申し訳なくて、どこかでその重りを取ってあげられたらよかったと思いました。これは、監督を辞めるまでは気づかなかったことです。選手たちに言わないまでも、そうなってしまうこともあるんだな、と。

 

 そのため、細田(学園高)の子たちが同じような気持ちでバレーをすることはないようにしたいです。勝負なので、勝利を目指すことに違いはありません。ただ、「このプレーがうまくなった」というように、彼女たちが自分やチームが成長する喜びを、日々見いだせるようにしたいです。

 

全国のハードルはもっと高い。みんなも頑張ってやればできるんだよ

 

春高県予選で優勝し、感情を爆発させる選手たち

 

 

伊藤 うちの場合は、県大会で優勝するのは当たり前になっているので、2位になったら悲惨です。泣きわめいていますよ。それまで19年連続でインターハイに出ていたのに、今年度は20年目で負けました。だから、今の3年生はすごくつらかったんです。立ち上がれないかなと思いましたが、レギュラーに3年生は2人しかいないなかでよく頑張りました。

 

 県を突破した段階でホッとしてしまって、全国の上位にいきたいという意欲が落ちることもありましたが、そこは先生が変えてくれています。「全国のハードルはもっと高い。目標はベスト4と簡単に言うけども、やっていることは全然違う」、そして「みんなも頑張ってやればできるんだよ」ともおっしゃってくれて。これまでも3年生はどうしても、春高予選を終えると「自分たちの仕事はほぼ終わった」とホッとしてしまうこともありましたが、今は手を抜いていません。

 

小川 達成感ね(笑) よくある話ですよね。本戦に向けて強くなる代もあれば、横ばいになったり、残念だけど落ちる代もあります。それも選手しだいなので。予選後、最初に「君たちはどっちになるかな。どう考えるかだよね」と伝えました。

 

——下北沢成徳高での40年以上の監督生活を終え、また第2の人生が始まったという感覚なのでしょうか?

 

小川 今、楽しいですよ。選手がどう変わっていくのかを見ているのが。細田では身長が低い選手が多いので、成徳と違って、ラリーになると最後に決め手がない。「これ、どうやって勝つんだろう?」と(笑) そこを考えるのは楽しいですね。

 

伊藤 そこは今までどおりしぶとく、相手がミスするまで頑張るぞ、という気持ちで。決められなかったらつなぐしかない。それは慣れているので(笑)

 

小川 そこは伊藤先生に任せて(笑) ただ、身長170㎝を切る選手がコートに打っても決まらないとなると、どうやって点を取るのかを追求させてあげないとね。

 

伊藤 春高県予選決勝では、早速効果が出ていました。相手のほうが大きくて、今までだったら「フェイントで逃げろ」と言っていたかもしれません。でも、小川先生の指示は「ブロックに当ててもいいから、打て!」でした。バンバン打って、ブロックを弾き出して、こんなにボールは飛んでいくんだ、と思って見ていました(笑) 

 

コーチとして2年ぶりの春高に帰ってくる小川エグゼクティブアドバイザー

 

力強くなったスパイクで得点を重ねた

 

 

——小川エグゼクティブアドバイザーは、昨年度の春高都代表決定戦で敗れ、本戦には届かず勇退。コーチとして2年ぶりの春高に帰ってきます

 

小川 「もう卒業です。長い間ありがとうございました」とごあいさつまでしたのに、次の年にはいるので「かっこ悪いな」と思って(笑) 埼玉県予選も、どんな顔をしたらいいんだろうと思って、すごく恥ずかしかったですよ。

 

伊藤 今まで一緒にやっていた先生と、今回一緒に春高に行けることは、私も選手たちもすごくうれしいですよ。選手たちも言っています。「小川先生と一緒に春高に行きたいんだ」と。

 

小川 ありがたいことですね。1、2年生と3年生にとっては、少し大会への臨み方が違うと思います。3年生はインターハイ予選で負けて、自分たちの代で19年連続出場を切ってしまった。私が成徳にいたときもそうでしたが、連続記録を切ってしまった代は後ろめたさがすごくあります。なので、3年生には思いきって自分の力を出してくれればいいなと思います。

 

 1、2年生は大会中に何かを身につけてほしい。大会で強くなる選手もいれば、押しつぶされる選手もいます。どちらになるかは、ビビって会場で下を向いているのか、それとも胸を張って歩いているのかで、だいぶ違うと思います。1、2年生、そして応援に来るであろう、来年入学予定の中学3年生は、「私たちは来年、必ずセンターコート立つためにここに来ているんだ」「この大会は私たちのためにあるんだ」というぐらいの気持ちで会場に入ってほしい。

 

 それは私たちの選手たちに対するアプローチで、いかようにもなると思うので。うまく落とし込んでいければと思います。

 

伊藤 今までうちでやってきたことに小川先生の要素がプラスされるので。結果がどう変わるかな、とほんとうにワクワクしています。力を発揮して、習ったことを少しでも見せられるように頑張ってほしい。今までの細田とはちょっと変わってきたな、という部分が出てほしいです。

このコンビはこれから何年続く予定?

 

春高本戦を決め、万感の表情の2人

 


——ちなみに、このコンビはこれから何年続く予定でしょうか?

 

伊藤 どちらかが死ぬまでです(笑)

 

小川 そう長くは持たないかもしれない(笑)

 

伊藤 いや、まだまだです。先生はそれだけのキャリアを積んでいらっしゃるし、私もそれなりに積んできているので。それを選手たちに還元できるいい機会かなと思っています。

 

小川 いい還元ができればいいよね。年をとってみんなの迷惑になるのであれば離れたほうがいいなと思っていましたが、「そうならなきゃいいじゃん」という気持ちもあって。威張るのではなく、新人のように笛を吹いて、選手たちの中に入っていくぐらい率先して動けば、そんなにご迷惑にならないのではないかな、って。

 

 この年代のコンビは、ほかにいないので(笑) 難しいですよね。若い人たちに「なんでいつまでもやってんの」と思われるのか「よくそこまでできるな」と思われるのかは。選手たちもやっぱり若い先生と一緒にやりたいと思いますよ。こんなおじさんとはやりたくないよって(笑) 

 

伊藤 でも、そこにはない我々のよさがありますから(笑)

 

小川 あるかなぁ。わからないけど(笑)

 

伊藤 技術力は絶対にあると思います。

 

小川 そこですよね。教える技術や理論はひょっとしたら我々のほうが持っているかもしれない。情熱とかはちょっと負けてしまうかもしれませんが(笑) 

 

 選手たちにとっていちばん必要なのはやっぱりそこだと思います。きちっとした技術や、彼女たちをきちっと見る目、そして、正しく向き合う指導者の姿勢。そこで「信頼できるな、このおじさんたちは」と思ってもらえれば(笑) 指導者として、バレー界でこういうふうに年をとっていくのも悪くないよね、となればいいですね。

 

伊藤 我々の姿を見て、若い先生たちに学んでもらえればと思います。成徳もうちも、もともとは能力がない選手たちを育てるしかなかったんです。今はその指導法がギュッと濃縮されてきたことで、選手たちが育ってきているのではないかと思います。やっぱり、中学で仕上がっている選手でチームを組むのではなく、育てないとダメ。少しでもいい選手になるために、できることは最後までしたいと思います。
 

——そうなると、やはり「死ぬまで」ということになりますね(笑)

 

小川 ははははは! いやぁ、それはちょっとなぁ(笑)

取材/田中風太(編集部)

写真/山岡邦彦(NBP

 

伊藤潔美(いとう・きよみ)

1959113日生まれ/早稲田実高(東京)→早稲田大

小川良樹(おがわ・よしき)

19551029日生まれ/早稲田大高(東京)→早稲田大

 

【伊藤潔美監督×小川エグゼクティブアドバイザー対談】

第1回・細田学園高のベンチに下北沢成徳高の小川良樹前監督!? 「もうバレーはないかな」から就任に至るまで

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第3回・「どちらかが死ぬまで」コンビ継続⁉︎ 細田学園高のベテランタッグが描く指導者としての姿

 

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