バレーボールの「JOCジュニアオリンピックカップ第37回全国都道府県対抗中学大会」(以下、JOC杯)が昨年末に大阪で開催され、中学生たちによる各都道府県の選抜チームが一堂に介し、熱い戦いを繰り広げた。その試合後には心温まるシーンも。予選グループ戦で戦った女子の兵庫県選抜と福井県選抜の2人には、こんな一幕があった。
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崖っぷちの場面でサービスエースを奪った兵庫県選抜の神野華凜
昨年12月26日、エディオンアリーナ大阪(大阪府立体育会館/大阪)の地下、第2競技場。第37回JOC杯の女子予選グループ戦は、兵庫県選抜と福井県選抜の試合が行われていた。
試合は福井県選抜が第1セットを獲得し、第2セットも先にマッチポイントに到達。もうあとがない状況でサイドアウトを奪った兵庫県選抜は、神野華凜がサーブを打つためにエンドライン前に立った。
スコアは17-24。もう一本もミスが許されない状況で、神野は腕をしっかりと振り抜いてサーブを打ちこむ。相手レシーバーがボールを弾き、サービスエースとなった。
「以前の自分だったら、『ミスしないように』と軽く打っていたはず。でも、それでは絶対に後悔するし、試合にも負けてしまうので。最後くらい、しっかりと自分で打ち抜こう、と思いました」
その一撃から兵庫県選抜は続けざまに二度のブレイクに成功する。そのなかには、後衛で神野が「緊張しましたが、絶対に落とさないぞ、という思いでした」と相手スパイクを正面で拾い上げるハッスルプレーも。結果的にストレート負けで終わったものの、「仲間と少しでも長くできたのがうれしかったです」と神野の意地が光った。
試合後、神野を優しく抱きしめた福井県選抜の江間心美
だが、兵庫県選抜は2敗目を喫し、これで予選グループ戦敗退。「すごくいいメンバーと過ごせたので…」と、試合を終えた直後の神野のほほに涙がつたう。そのとき、相手チームの選手がそっと近づいた。赤いユニフォームが神野を包み込む。「(神野)華凜の分まで勝ってくるよ」とささやく、その人物は福井県選抜の江間心美だった。
聞くに、2人が出会ったのはそれぞれの選抜活動が始まってから。JOC杯に向けた練習試合や合宿で一緒になることが多く、10月頃に初めて会話し、そこから仲が深まった。
「ふだんはほんとうに明るくて。でもバレーボールになると、まっすぐです」とは江間が抱いた神野の印象だ。組み合わせが決まってから直接会う機会はなく、大会本番で再会。「この舞台で戦うんだ」と江間は対戦に胸を躍らせ、窮地に立たされながらも気を吐く神野の姿に「かっこいいな」と感心した。
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「バレーボールが好き」という純粋な思いが交流を生んだ
決して一緒に過ごした時間が長いわけではない。それでも、試合後には神野の元へ、江間やほかの福井県選抜の選手が駆け寄った。涙する自分を抱きしめたその優しさに、神野は胸を打たれた。
「すごくうれしかったです。敵なのに…。敵なんですけど、ある意味、負ける相手が福井でよかった、と思えるチームでした」
神野自身、JOC杯の活動の中でチームの垣根を越えて交流を持とうとしたのには理由があった。
「純粋に、バレーボールが好きなんで。いろんな人たちと交流して、いろんなバレーボールを知りたいし、一緒にやりたいからです」
コート上と同じように、“つながる”ことに喜びを感じていたのである。
そんな2人は、どうやら高校でチームメートになるという。「一緒に支え合って、成長したい」と神野が言えば、「一緒に日本一を目指して頑張りたいです」と江間。
次のステージでも、同じコートに立つ。今度はネットに向かって同じ側で、ボールも、思いもつなぐ。
(文・写真/坂口功将)
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