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警視庁がVリーガーとして最後のゲームへ。「有終の美を飾りたい」

 バレーボールのVリーグを戦うV3男子の警視庁フォートファイターズ。2024-25シーズンから始まる新リーグ移行に際し、チームはVリーグに参戦しない旨を発表した。すでに224日、25日に東村山市民スポーツセンター(東京)で今季最後のホームゲームを実施。3月に入り、残る試合はわずか。ついにVリーグのチームとしてファンの前に姿を現す最後の機会がやってくる。

 

 

今季はV3男子を戦った警視庁フォートファイターズ

 

最後まで戦うんだ、と決意して臨んだシーズン

 

 昨年10月に開幕した2023-24 Vリーグは、ほとんどのカテゴリーでV・レギュラーラウンドの佳境を迎える。一試合を消化するたびに、シーズンの終幕が近づく。そして、それは警視庁フォートファイターズにとって、Vリーグでの戦いがまもなく終わることを意味している。

 

 2024-25シーズンからJVL(ジャパンバレーボールリーグ)にて始める新規リーグへの参加を見送る。

 そのニュースが発表されたのは昨年11月だったが、チームには今季が始まる前から通達されていた。もちろん、選手たちの中でも波紋を呼んだ。

 

 警視庁のバレーボール部として活動を始めて50年近くの歴史を誇り、1999年からVリーグに参戦。2013/14シーズンにはV・チャレンジリーグ(現在のV2)制覇の実績を持つ。チームとしては国体を始め、国内の主要大会に参加はしているものの、やはり主戦場はVリーグ。それだけに「穴が空いた感じと言いますか。気持ちを切り替えるまでに時間がかかりました」(吉澤玄祐キャプテン)

 

 その決定が直接的な要因ではないにしろ、シーズンが開幕し、劣勢の場面や黒星を喫すると、どうしても雰囲気は暗くなる。ネガティブな発言も出てしまいがちだったというが、シーズンを過ごすなかで選手たちは次第に腹をくくる。最後まで戦うんだ、と。

 特にチームをけん引したのは、ガッツあふれるプレーが魅力の阿部翼や齋藤浩貴たちだ。試合では闘志をむき出しにして戦い、ムードを押し上げる。吉澤キャプテンは「僕自身がそういうタイプではないので、彼らには助けられます」と感謝してやまない。

 そしてそれは、「気分がマイナスになってしまう場面でも、みんなで助け合う。やはりバレーボールはつなぐスポーツですから。誰か一人で、ではなく、全員で勝とう」という志の表れでもある。

 

 

キャプテンとしてチームを牽引する⑱吉澤

 

 

仕事とバレーボールを両立し、これまで戦ってきた警視庁

 

 そんな警視庁がVリーグの舞台から去ることを惜しむ声も。毎年、「春の高校バレー 全日本高等学校選手権大会」に向けた審判講習会も兼ねて、年末に警視庁と練習試合を行うV3男子のトヨタモビリティ東京スパークルの松枝寿明監督は敬意を込めて、このように語る。

「私たちと同じで、本業である仕事とバレーボールを両立されているわけですが、それこそ比べものにならない苦労があるでしょう。一緒に体育館を借りて練習にいらっしゃるときもありますが、時には夜勤明けでお疲れの様子もお見受けします。しっかりと仕事をされて、そのうえでバレーボールに励む姿を純粋にすごいと感じますね」

 

 警視庁の所属選手たちは主に特科車両隊で業務に励んでおり、大規模イベントがあれば、警備にあたることも。「仕事を一生懸命やって初めて、バレーボールとの両立ができるんです」という吉澤キャプテンの言葉は、周囲が思う以上に、そうやすやすと口にできるものではないだろう。

 

 そんな姿に見るものは惹かれる。今年2月、近畿大学記念会館(大阪)の警視庁vs.兵庫デルフィーノの一戦には、神奈川から訪れたファンの方も。話を聞くに、仕事もバレーボールも一生懸命な姿を見て、応援するようになったのだという。そのファンの言葉が、警視庁というチームの魅力を表現するうえで、ぴったりだった。

「仕事と一緒で、コート上でも誠実さが出ると思うんです。ファン対応も優しいですし、まじめだけれど楽しくプレーしている。ふだんは子どもたちが憧れるヒーローで、休日はバレーボール選手というヒーロー、そこがいいですよね」

 

 

ユニフォームを着て、遠方まで応援に駆けつけるファンの姿も

 

【次ページ】「気持ちのいい、鳥肌の立つゲームが見たい」というファンの声

得点シーンでは感情を爆発させる阿部。チームきってのムードメーカーだ

 

 

 

「気持ちのいい、鳥肌の立つゲームが見たい」というファンの声

 

 警視庁という公的な機関によるバレーボールチームは、国内の中でも特殊な立ち位置にあると言えるだろう。組織内におけるチームの存在意義について、吉澤キャプテンは「まずは広報的な役割が一つ」と言った。そのうえで「僕たちが必死にプレーするかっこいい姿を見せることが、バレーボールの競技人口増加につながればいいなと思いますし、それに警察官が一生懸命にプレーする姿を通して、業務をする上でも皆さんに協力してもらえるような関係につながればと。その両方ができるように、僕たちは頑張ろうと考えています」。

 

 警視庁のホームゲームでは、パトカーや白バイの展示企画もあり、来場した子どもたちは目を輝かせている様子が見られた。と同時に、その会場で目にするプレーが見る人の心に響くものであれば、きっと「バレーボールをしたい」という思いを生むことだってありうる。

 

 Vリーグの警視庁フォートファイターズとして最後のゲームがやってくる。2月末のホームゲームを控えた頃、ファンからは「勝っても負けても気持ちのいい、鳥肌が立つようなゲームが見たいですね」「試合後にあいさつしてくださると思うので、全員で敬礼してほしいかも(笑)」という声が聞かれた。そんな思いに最後の瞬間まで、選手たちは応えるに違いない。

 

「ほんとうにたくさんの方々が応援に来てくださると思うので。あきらめずに最後の一点まで食らいついていく。たとえ届かなくても、ボールを追いかける。その姿勢で観客の皆さんを楽しませるプレーがしたいですし、勝って感謝の気持ちを伝えたい。有終の美を飾りたいですね」(吉澤キャプテン)

 このステージで最後まで戦いきると誓った、ヒーローの言葉だ。

 

 

“Vリーガー”警視庁フォートファイターズは最後まで、「ファンとともに」―。 

 

(文・写真/坂口功将)

 

 

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