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指導現場に変化!? 中学生育成事業での新たな取り組みと今後への期待

 公益財団法人日本中学校体育連盟バレーボール競技部(以下、日本中体連)による令和5年度全国長身選手発掘育成合宿が28日〜11日に味の素ナショナルトレーニングセンター(東京)で行われ、全国から選出された計80名の中学生男女が参加した(数名の選手はコンディション等の事情により欠席)。高いポテンシャルを秘めた選手に期待が高まるなか、同時に見られたのは現場における指導者の変化だ。今年度の合宿で実現した、新しい取り組みとは。

 

 

来年度の全国中学生選抜や各年代のアンダーエイジカテゴリー日本代表の選考の一つに位置づけられる全国長身選手発掘育成合宿

 

毎年実施されている長身選手発掘育成合宿

 

 今年2月9日、全国長身選手発掘育成合宿の取材に出向いた。シニア日本代表も使用するバレーボール専用コートには、すでに今回の合宿に参加する40名近くの女子中学生がそろっていた(ちなみに、同時刻に男子はほかのコートにて別メニューを実施)。

 

 日本中体連強化委員会の前副委員長である加藤啓吾先生(東京立正中〔東京〕)が、こちらに気づいて、開口一番。

「指導者の数が少ないでしょう?」

 確かに体育館内には、加藤先生を含めて、3名しか指導者の姿が見たらない。例年だと、この合宿には倍近くはいるはずだ。

 

 その理由を聞くと–。

「実は今、別室で指導者講習会を開いているんです。公募というかたちで、全国から先生方に来ていただいており、そちらに指導スタッフたちも出向いております。並行して、こちらも指導することになっています」

 実際の合宿現場で催される、公募型の指導者講習会。これまでには見られなかった取り組みだ。

 

 

味の素ナショナルトレーニングセンターの共用コートで、ボディコントロールの実演を受ける参加者たち(提供:〔公財〕日本バレーボール協会)

 

昨年秋から公募を開始し、30名近くが参加

 

「現場では以前から、必要だという話をしていました。指導者の数を増やすためにも、と。そうして昨年夏に(公財)日本バレーボール協会の強化担当に相談のうえで、実行に移しました」

 そう語るのは、日本中体連強化委員会委員長の三石雅幸先生(飯島中〔長野〕)だ。昨年11月に日本中体連の常任委員会で各ブロック長に投げかけ、各地から講習会への希望者を募ることに。多くの手が挙がり、選考の末、最終的に30名近くが参加することになった。

 

 講習会は長身選手発掘育成合宿と同じ日程、同じ会場で行われ、最初はアンダーエイジカテゴリー日本代表に監督やアドバイザーとして携わる三枝大地氏が、メンタル面やボディコントロール、実技面など実際に現場で施していることを教授。その後、受講した指導者たちは長身選手発掘育成合宿に加わった。

 

 今回の取り組みは三石先生が語ったように、指導者の増加が狙いの一つにある。昨今、指導者となる教員(特に競技経験者)の人手不足が深刻化し、部活動の減少へつながる傾向にある。強化育成だけでなく、競技普及の観点からも、これは痛手。その数自体は現実的にまだまだ及ばずとも、こうした試みは改善策の一手となりえる。

 

 

今年度の全国中学生選抜では男子チームを指揮した三石先生

 

【次ページ】熱量の高い指導者たちが全国各地から集った

全国から集まった指導者たちは熱心に耳を傾けていた(提供:〔公財〕日本バレーボール協会)

 

熱量の高い指導者たちが全国各地から集った

 

 同時に、日本中体連が従来の方法から脱却しようとする姿勢もうかがえる。

「これまでだと、各ブロックから推薦された先生方を派遣してもらい、合宿での指導にあたってもらっていました。ですが、それでは本人のモチベーションにもばらつきがありますし、反対に、こういうレベルで指導を学びたいと思っている方々にはチャンスがなかった。これまでのやり方に三石先生も限界を感じていらしたはず。ならば、指導に携わる方たちに、飛び込んでみませんか、と投げたわけです」(加藤先生)

 結果、全国各地から意欲的な指導者たちが集まった。なお、実情を明かすと、参加経費は各自の実費負担である。

 

 合宿を終えて、三石先生も「とてもよかったと思います。やはり本人たちの熱量が、これまで以上のものでしたから。終わってからフィードバックをいただきましたが、あふれんばかりの思いを感じました」と好感触を覚えた様子だった。

 

合宿中の練習にも実際に携わり、講習で受けた内容をアウトプット(提供:〔公財〕日本バレーボール協会)

 

イタリアバレーボール界の実例と重なる

 

 以前の方法だと、指導者の人選にしても日本中体連の枠に収まってしまう部分があった。だが、今回の講習会に参加した指導者たちが学びを持ち帰ることで、トップからアンダーエイジカテゴリーさらには草の根にまで裾野が広がり、それが一貫した強化体制の構築にもつながるだろう。

 

 そんな期待を抱くと、ふと思い出したことがあった。それはイタリアバレーボール界における指導普及の実例だ。イタリア・セリエA男子のパドヴァで20年来、アカデミーコーチを務めるジョルジオ・サバディン氏は昨年夏、このように語っていた。

「フリオ・ベラスコ氏が各地域、各チームのアカデミーの指導者たちを、トップチームつまりシニア代表のサポートへ入れ替えるように加えていたんです。運よく、私もそこでチャンスを得ることができました。あの経験が指導者人生において価値あるものになっています」

 

 ベラスコ氏といえば、1980年代の男子イタリア代表に黄金期をもたらした名指導者であり、今年からは女子イタリア代表の監督を務める。イタリアバレーボール界の強化にこれまでも携わり続け、指導現場の裾野拡大も施していたのである。

 なお、サバディン氏が指導に携わるパドヴァは、ファビオ・バラーゾやマッティア・ボットロら現在の男子イタリア代表の主力を輩出しており、その育成力の高さから“イタリア国内における重要拠点”と評価を受けている。

 日本中体連が今、取り組もうとしていることは、このケースと重なる。この先のバレーボール界の強化の下地をつくるという点においても、有意義なものだと言えそうだ。

 

(文・写真/坂口功将)

 

 

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