バレーボールの令和5年度全国中学生選抜(以下、全中選抜)の海外遠征が現地2月19日から26日にかけてイタリアで実施された。女子は現地で事前合宿に臨んだのちに、U17世代の国際大会「Nations Winter cup」で見事に優勝。大会ベストリベロに吉井美樹(忍岡中〔東京〕3年)が選ばれた。強豪ひしめく東京都から見いだされた才能が、海外で得たものとは。
圧倒されることから始まった海外遠征
イタリア現地、2月20日。女子イタリア代表のアンダーエイジカテゴリーで構成されたチーム「クラブイタリア」との親善試合に臨んだ吉井美樹は目を丸くした。
「でかい!! 強い!! パワー!! ほんとうに同年代? という感じでした」
厳密にいえば、対戦したクラブイタリアの選手たちはU17世代で、全中選抜はいわばU15。吉井が口にした要素はもちろんのこと、スピードや攻守の水準、また、日頃からクラブチームとして活動していることから遂行する戦術の精度まで、選抜のこちらとは開きがある。
その格上の相手と初めて対戦したこの日の親善試合で、全中選抜は0−3(14-25,15-25,22-25)と、こてんぱにやられた。第1セットはアウトサイドヒッターで起用された吉井だったが、相手サーブを返球できずに失点を重ね、オポジットの忠願寺莉桜(稙田南中〔大分〕3年)に途中からサーブレシーブに加わってもらっている。
「これまでだったら『絶対に捕れる』と思ったサーブも、ボールが強くて、腕が持っていかれました」
Nations Winter Cupの事前合宿で味わった、海外とのレベルの差。吉井のイタリア遠征は、こうして始まった。
女子U16アジア選手権で味わった悔しさを糧に
昨年、女子U16日本代表に選出され、第1回アジア女子U16選手権大会に出場した吉井。チームは優勝に輝いたが、本人にとってはただただ悔しさが残る舞台だった。
「私自身、公立校でバレーボールをしていたのもあって、アンダーエイジカテゴリー日本代表も『どんな世界なの!?』とすべてが初めてでした。夢のような感覚だった反面、あらゆることで緊張していました」
吉井が在籍する忍岡中は昨年度の東京都夏季大会(中学校総合体育大会兼選手権大会)では都大会2回戦で敗退。そもそも東京都は全国屈指の激戦区であり、えてして私立の名門校がひしめく。そんななか、U16日本代表に抜擢されたのだが…。
「正直、何もできなくて。こんなにもできないのか、と自分の弱さを身に染みて知りました」
とはいえ、上昇志向を失うタイプでは決してない。むしろ困難をバネにして、自らの成長につなげる。その後、JOCジュニアオリンピックカップ全国都道府県対抗中学大会の東京都選抜入りを果たし、ジャンプ力アップのためにトレーニングに励んだ。やがて全中選抜では「同じズボンでも、以前は余裕があったのが、今ではピチピチになっていたり。『頑張っているじゃん、自分』って(笑) 以前よりも、ちゃんと強くなっていると実感しました」と手応えをつかんでいた。
サーブレシーブの上達に励んだイタリアでの日々
その姿勢は今回の海外遠征でも継続した。クラブイタリアで相手サーブに苦しんだことで、その現実を受け止め、スタッフからの指導を吸収した。
「体の横でさばけていたボールも、捕れなくて。そもそも5号球でやっていませんでしたから。なので、しっかりと体の前で捕る、たとえ差し込まれるような球筋に対しても、後ろに下がって捕る。それを心がけて過ごしました」
今回の海外遠征では、選手の可能性を引き出す目的から、さまざまなポジションをトライさせている。吉井も本来はアウトサイドヒッターだが、リベロとして起用されることも。そうして、親善試合や「Nations Winter up」大会本番を通してサーブレシーブを上達させていく。
「何もできなかった」アジアU16選手権大会を糧に、「絶対に成長したい」と胸に留めて臨んだ全中選抜は、大会ベストリベロという勲章を手にして締めくくられた。決勝の胸中を吉井はこう明かす。
「予選までは楽しんでプレーができていました。『リベロが楽しい、ボールを拾うのが楽しい』って。ですが決勝は『拾わなきゃいけない』という思いが出てきて、試合前からうまくいきませんでした。
やばいな、と思ったのですが、試合中に『今、楽しんでバレーボールができていないな』と思い直したんです。そこから笑顔を増やして、声を出すようにしたら、ダイレクトのボールが拾えたり、Aパスを返球できるようになりました」
振り返れば、クラブイタリアとの親善試合で苦しんだ際は「やばい。どうしよう」と落ち込み、気持ちの切り替えを課題に挙げていた。そうしたメンタル面の波も、克服しようと励んでいたのである。
U17ドイツ代表キャプテンとの絆
「相手にまず日本人ではない選手がいる。それ自体がなかなかできない経験なので。ここに立っていることに、感謝しないといけないな、と思います」
それが、日の丸をつけて海外の舞台を経験する吉井が抱く、素直な気持ちだ。技術面、精神面、それらを成長させるきっかけをいつもそこでつかんでいる。
そして今回のイタリアでは、海外ならではの特別な体験も。大会のグループラウンドで対戦したドイツのキャプテン、フロレンティーネ・ロスマンが吉井のプレーに惹かれ、ジャージの交換を申し出たのである。2人は決勝を終えたあとに、トレーニングジャージを交換。インスタグラムで「また試合ができたらいいね」とやりとりをした。
身長175㎝の吉井自身は今後、アウトサイドヒッターとして勝負したいとにらんでいる。対するフロレンティーネは身長187㎝のミドルブロッカーだ。
「友達だけれど、やっぱり敵だし、ライバルでもあるので。絶対に打ち抜きたいし、逆にアタックを拾ったりして、なんとしても勝ちたいなと思います。
世界の高いブロックが相手だとスパイクもまるで通用していないので、奥に打つことや力強いスパイクが打てるように、アタックを磨きたいです」
いつかまたやってくるマッチアップを夢に描いて。その目に成長の道筋は、はっきりと見えている。
※吉井の吉の字はつちよし
(文・写真/坂口功将)
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