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WD名古屋退団のクレクが左腕に刻んだタトゥーの正体。「覚えておきたかった」と明かす“思い出の証し”とは

 バレーボールの2023-24 Vリーグ、DIVISION1 MENV1男子)は331日に閉幕。すでに退団を発表している選手もおり、ウルフドッグス名古屋のバルトシュ・クレクもその一人。世界屈指のスター選手で、チームにリーグタイトルをもたらした。そのクレクの素顔と、ラストシーズンに示したチームへの愛の形をつづる。

 

バルトシュ・クレク(Bartosz Kurek/1988年8月29日生まれ/身長205㎝/最高到達点:370㎝/ポーランド代表/オポジット)

 

2020-21シーズンからWD名古屋でプレー

 

 誰もが、その魅力的な人間像に惹かれた。大きな体格に目いっぱいの優しさとファイティングスピリッツを宿し、いざバレーボールになると周囲を鼓舞しながら、自らはポイントゲッターとして得点を重ね、チームを勝利に導く。

 実に、4シーズン。天皇杯、黒鷲旗、そしてVリーグ。主要大会のタイトルをすべて獲得し、その立役者であるクレクが日本でのプレーに終止符を打った。

 

 思えば、WD名古屋と結ばれる運命だったのかもしれない。2020年、チームに合流するや、強烈スパイクのごときあいさつをお見舞いしている。

「ここに来るために、このタトゥーを入れてきました」

 披露したのは左上腕部に刻まれた、狼のタトゥー。チームが、その名前のとおりユニフォームにも採用している“ウルフドッグス”とまるで似ていた。

 と言っても、実際には2016年頃に彫ったもので、あくまでも偶然。けれども、初めて日本のクラブで戦うにあたり、ジョークを交えることでチームに溶け込もうとしていたのが想像できる。

 

WD名古屋に入団する前から左腕に彫られていた、狼のタトゥー

 

ユーモラスかつ純粋なまでに真面目。人柄のよさが印象的だった

 

 もはや言うまでもないが、クレクはバレーボールシーンにおける超ビッグスター選手。2018年にはポーランド代表のエースとして世界選手権優勝とMVPに輝いている。

 そんな大物プレーヤーの来日に、報道陣は必ずといっていいほど真っ先に質問をしたものだった。どうして日本を選んだのですか? と。

 もちろん真摯(しんし)に回答するのだが、お決まりのように毎度聞かれるとあって、本人はやがて困惑する。チームスタッフに「こうも聞かれるなんて。僕は日本でプレーしてはだめだったのかい?」とぶつけたことも。純粋で真面目、ゆえに素直に受け取ってしまったのだろう。

 

 クレクからすれば、一人のプロバレーボール選手として魅力的な環境でプレーする選択自体は至極当然といえるものだ。そうして選んだのがVリーグであり、WD名古屋だったのである。加えて日本という国自体は、ポーランド代表として来日したことは何度もあるし、キャリアにおける印象的なスパイクに、2009年にガイシホール(愛知)で行われたワールドグランドチャンピオンズカップでの一本を挙げていた。名古屋に縁を感じていたのは確かである。

 

今年3月17日、23-24シーズン最後のホームゲームとなったエントリオで退団セレモニーが行われた

 

 

【次ページ】チームメートに影響を与えたクレクのマインド

得点シーンでは両腕を目いっぱいに広げてガッツポーズ。チームの士気を高めた

 

チームメートに影響を与えたクレクのマインド

 

 WD名古屋に入団して2シーズン目にはキャプテンを託された。これは自身のクラブキャリアにおいて初めてのこと。それでも自身が考える、“自分のやるべきこと”は変わらなかった。

「ヨーロッパでは胸番号の下にラインが入っていても、いなくても、リーダーシップを発揮する選手がいます。私自身は常にチームや自分にとってベストであろう、と考えています。自分以外の何かを表現するのではなく、私自身が自然体でいること、それがリーダーシップにつながっているのではないかと思っています」

 

 常にハードワークし、常にポジティブなマインドでコートに立つ。その姿勢に周りも刺激を受けたことは数知れず。内定選手時代も含めて2018-19シーズンからWD名古屋でプレーし、チームのエースへと成長した高梨健太は昨年5月、日本代表での活動中にこう口にした。

「ここ(日本代表)にくると毎年、思い浮かぶんですよ。どんなときでも弱気にならない、彼のマインドのことが。

 それは僕だけじゃなくて、WD名古屋ではみんな思っていることだと。おれも、おれも、となりますからね。なので、ほんとうにクレクが味方でよかったと思うんです(笑)」

 

 

日本で臨む最後の大会となった23-24 V・ファイナルステージではコンディション不良からコートに立つことはかなわなかった

 

左腕に刻んだ、新しいタトゥー。そのデザインとは?

 

 クレクという旗手を携えたWD名古屋は2022-23シーズンにリーグ制覇を果たした。その前年には決勝に進んだものの、優勝まであと一歩及ばなかったとあって、22-23シーズンは日頃の練習から「これではまた、あのときの悔しさを味わうぞ」とクレクは仲間を奮い立たせ続けた。その言葉は厳しくもあり、同時に、このチームで最高の感情をともにしたいという一心から出たものだった。

 

 悔しくも23-24シーズンは自身のコンディション不良もあり、V・ファイナルステージではコートに立つことなく、クォーターファイナル敗退を見届けた。続く5位決定戦も同様に、その姿はずっとベンチの中だった。

「最高の順位ではありませんでしたが、日本での最後の試合に勝ちをもたらしてくれたチームメートに感謝したいです」

 勝利した5位決定戦後の記者会見で開口一番に、そのような言葉で仲間を称えたクレク。感謝や気遣いを欠かすことなく、そして真摯(しんし)に受け答えする姿も来日したときから最後まで変わらなかった。

 

 違ったとすれば、その左上腕部には、1年前には見られなかった新しいタトゥーが彫られていたこと。

「日本で過ごしたこの素晴らしい4年間を覚えておきたかったので、この体に刻むことにしたんです。私にとって幸運の証し、最高の思い出のようなものです」

 今度はジョークじゃない。WD名古屋で戦うラストシーズンのために刻み、そしてこの先もずっと心はチームとともにあることを示す、クレクの愛情表現。

 そのデザインは、名古屋城を模したものだった。

 

左腕に刻まれたタトゥー。4年間の思い出を込めた

 

 

(取材・写真/坂口功将)

 

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