パリオリンピックのバレーボール競技は現地7月27日(土)に開幕。男子日本代表はプール戦の初戦でドイツと対戦する。そのドイツは世界一を知る監督と実績十分のベテラン勢が手を取り、頂点を目指す。
前評判をくつがえし、パリオリンピック予選通過を果たしたドイツ
史上かつてないほどの激しいメダル争いが繰り広げられると予想されるパリオリンピック。参加12ヵ国の中でも、ダークホースといえるのがドイツだ。
というのも、最近の戦績は2022年世界選手権で15位、23年ネーションズリーグは11位、同年のヨーロッパ選手権は9位と振るわないものだったから。なおかつオリンピックは直近2大会の出場がかなわず、いずれも予選敗退に終わっていた。
それもあって、昨年秋のパリオリンピック予選に向けた前評判が決して高くなかったのは確か。ところが、どっこい。ドイツは、ブラジル、イタリア、キューバといった実力国がそろったグループAを全勝で突破してみせたのである。
その立役者となったのが、オポジットのジェルジ・グロゼル。バレーボール界きっての大砲としてうならせてきたグロゼルは昨年のパリオリンピック予選に合わせて代表に復帰すると、当時38歳ながら大会2番目の得点を叩き出し、いまだワールドクラスであることを証明した。
さらに37歳のベテランセッター、ルーカス・カンパも予選は出場しなかったが、代表の司令塔の座にカムバック。さっそく今年のネーションズリーグでも老獪なトスワークを披露している。
ネーションズリーグ自体は11位の成績に終わったものの、すでにパリオリンピックの出場権を獲得していたとあって、主力を温存する場面もあった。本来の実力が読みにくいのは対戦国にとって脅威。パリの地で大会をかきまわすことになっても、なんら不思議なではないのだ。
今年6月に来日したカンパを直撃。あのときのことを覚えていますか?
グロゼルやカンパ、彼らベテラン勢は2014年世界選手権銅メダリストという実績を持つ。それは現時点において、ドイツが世界の主要大会(オリンピック、世界選手権、ワールドカップ、ネーションズリーグ)で手にした唯一のメダルとなっている。(※)
その年の世界選手権を制したのが、開催国のポーランド。そして、そのチームでキャプテンを務めていたのがミハウ・ヴィニャルスキ、現在のドイツ代表監督である。
実はこの大会で、ドイツとポーランドは準決勝で対戦。結果はポーランドに軍配が上がったが、ドイツはカンパが攻撃陣を操り、グロゼルが14得点と気を吐く。対するヴィニャルスキは6得点と低調で、最終的にミハウ・クビアクと交代。けれども、続く決勝では13得点をあげて世界一に貢献している。なお大会ベストセッターにはカンパが選出された。
そんなゆかりある面々が今は一国の代表チームで、現役ばりばりの主力と監督の関係を結んでいるのだ。10年前になるが、当時のことを覚えているのだろうか? 今年のネーションズリーグで来日した際に聞くと、カンパは声を弾ませた。
「もちろん!! もちろんさ。時々、そのことについて僕たちは話すんだ。『あれはラッキーで勝てたんだよな?』って冗談まじりにね(笑)
ほんとうに素晴らしい思い出になっているよ。彼(ヴィニャルスキ)はワールドチャンピオンのキャプテンとなり、そして僕たちは映えある結果を手にした、いい大会だったね」
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「良好な関係を築けている。最高の成果を願っている」とカンパ
現在、ヴィニャルスキは40歳。2016/17シーズンまで現役だったことを思えば、指導者としてのキャリアは比較的浅い。だが、ポーランド・プラスリーガでは強豪ザビエルチェを率いるなど手腕への評価は高く、2022年からドイツ代表の監督に就任した。
カンパは監督としてのヴィニャルスキをこのように語った。
「総じて見ればいい決断だったと思うんだ。なんせ、彼はグッドガイだからね。まだ若いとはいえ、年々経験を重ね、指導者として成長しているのが目に見えるんだ。それに落ち着きも増している。
毎日、毎週、毎年、僕たちは彼のことをより深く知り、良好な関係を築けている。彼が代表監督になると決めてくれたことがうれしいし、今年の夏、ともに最高の成果を得られることを願っているよ」
お互いに国の代表として、しのぎをけずったものどうしだった。それが今は、ともに世界の頂点を目指している。しかも、その舞台にたどり着くために監督は救いを乞い、その期待に選手側は見事、応えてみせた。
まるで王道バトル漫画のような展開ではないだろうか。
「自分のチームを勝利に導く、それだけです」とヴィニャルスキ監督
そしてヴィニャルスキ“監督”の口からも、厚い信頼を表す言葉が聞かれた。
「ルーカス(・カンパ)はとても経験豊富な選手ですし、チームにとってほんとうに大事な存在のままなんです。10年前の世界選手権を覚えているかって? もちろんです。
私は6年前から指導者になりましたが、携わるチームのなかには一緒に戦った仲間や対戦相手が数多くいます。そのこと自体は、もう慣れたものです。ルーカスたちはほんとうにプロフェッショナルな選手ですし、すべてがうまくいくと信じています」
ヴィニャルスキ自身は母国以外の代表を率いることをどう感じているのだろうか。場合によってはパリオリンピックで、それこそメダルを懸けてポーランドとぶつかる可能性だって十分にありえるが…。
「確かに私はポーランド人です。ですが、今はドイツ代表を指揮する立場。自分のチームを勝利に導く、それだけです」
現役時代に世界一を知った指揮官が、かつてのライバルたちを導く。その彼らが10年前に手にした輝き以上の勲章をもたらすために。そんな絆こそが、今のドイツが携える最大の武器かもしれない。
(※)東西分断時に東ドイツが1969年ワールドカップと1970年世界選手権で優勝、1972年ミュンヘンオリンピックで銀メダルを獲得
(取材・文/坂口功将 写真/Volleyball World)
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