今から10年前、2014年の師走、当時高校3年生の古賀紗理那の取材のため、熊本信愛女学院高を訪ねた。目前に迫った「春の高校バレー」に向けた意気込みを聞くためだった。
この年キャプテンを務めていた古賀は、その役割について次のように語っていた。
「やっぱり、キャプテンになって意識して周りを見るようになりました。全部は見られないんですけれど、例えば、試合に出る子たちのその日の調子や表情をしっかり見て、声をかけたり、気持ちをノセたりということを意識してするようになりました。
私は、あまり自分からいろいろしゃべるタイプでもないし、ホントは自分のことで精いっぱいだったんですけど…。今も精いっぱいなんですけど(笑) そこは私が周りを見ないとチームが成り立っていかないと思ったので、しっかり見るように意識してきました。
いろいろ指示を出すとみんなついてきてくれるし、逆にみんなから私にもどんどん意見を言ってくれるので、『自分一人じゃないんだ!!』と感じることができました」
キャプテンとしての古賀の姿勢は、10年後の今もまったく変わっていないように思う。変わったのは、経験を重ね、積み上げた自信がその眼差しに宿っていることだ。
7月10日、パリオリンピックに向けて羽田空港を出発する直前の会見で、女子日本代表の眞鍋政義監督も語っていた。
「役割というのは人を成長させるものなのだなと感じています。この3年間、キャプテンになってから(古賀は)まったく変わりましたから。それは日々の練習から違いますし、特に今年に入ってからはパリオリンピックに対する情熱というか、懸けているものがやはり違うなと。(日本代表初招集の)2013年のときはまだ高校2年生でしたから、初々しくて何もわからず、先輩たちの後ろをずっと追いかけていましたが、今やキャプテンであり、そして日本のエースですから」
眞鍋監督がいう、キャプテンでありエースであることの重圧がいったいどれほどのものであるかは想像を絶する。
羽田空港での会見で、28歳の古賀はパリオリンピックに懸ける思いを次のような言葉にした。
「チームが勝つために自分のスキルを上げていこうというのが、(東京2020後の)この3年間のテーマでした。少しずつですけれども、毎年スキルも体のコンディションも仕上がってきたので、それをパリオリンピックの初戦から出せるようにしたい。絶対にメダルを取る。それは自信を持って、胸を張って言いたいと思います。ほんとうに苦しいゲームが続くと思いますが、その中で勝つためには、それぞれのプレーのほんの少しの精度とか、ちょっと怖いけど頑張ってこのコースに切ってみようとか、サーブも頑張ってちょっと攻めてみようとか…、気持ちだけで勝てるわけではありませんが、ほんの少しの勇気でほんとうに変わると思うので、そこは私も含めて、チームみんなで大切にしていきたい」
パリオリンピックは、古賀にとって選手生活の集大成の場となる。
「私はバレーボールがほんとうに好きで、バレーボールのおかげでチームメイトや多くの方々と出会うことができました。そういう感謝の気持ちを込めてプレーしたい」
10年前の取材で、古賀は将来の夢についてこんな話もしていた。
「バレーは続けていきたいので、この先ももっと上手になりたいし、大きな舞台で活躍して、誰からも頼ってもらえる選手になりたいと思います」
古賀紗理那は有言実行の人なのだと、つくづくそう思う。
キャプテンとして、そして日本のエースとしての誇りを胸に、パリのコートに立つ。
文・写真/村山純一(月刊バレーボール編集部)
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