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過密日程のバレー界でアメリカ男子のベテランブロッカーが下した“休養”という決断「パリでメダルを獲る気持ちが今までにないほど強かったんだ」

 パリオリンピック バレーボール競技で男子日本代表は現地8月2日(金)にプール戦(予選ラウンド)C組最大の強敵、アメリカと対戦する。経験豊富な顔ぶれが並ぶアメリカの中でも、自身3度目のオリンピック出場となるのが37歳のベテランミドルブロッカー、マックスウェル・ホルト。ホルトは東京2020オリンピックを終えて、一つの決断を下した。

 

 

マックスウェル・ホルト(Maxwell Holt/1987年3月12日生まれ/身長205㎝/最高到達点351㎝/ミドルブロッカー/アメリカ)

 

 

トップ選手ほど、1年中プレーをしているバレーボール界

 

 もう長いこと議論の的に上がり、選手たちの口から何度も聞かれる。バレーボール界における過密スケジュールの問題だ。

 選手がトップレベルになるほど、半年間に及ぶクラブシーズンでは高いパフォーマンスを求められ、それが終われば各国の代表活動に参加。毎年開催されるネーションズリーグに始まり、大陸選手権や主要国際大会で列強諸国としのぎを削り、その後まもなくしてプレーの場は次のクラブシーズンへと移る。

 

 昨年10月、アジア競技大会を戦い終え、クラブシーズンを前にした開幕会見で東京グレートベアーズの柳田将洋に水を向けると、「僕自身、体づくりができているかと言わればノーです。アジア競技大会を終えて数週でここに立っているので、不安はゼロではありません」と率直な思いを明かした。

 もちろん、FIVB(国際バレーボール連盟)はクラブシーズンと代表活動の期間を世界共通で設定し、それぞれの間に幾分かの空白期間があるのは事実。それでも年間を通して見れば、タフなことに変わりはない。

 

 

男子アメリカ代表は①マシュー・アンダーソンが37歳、⑳デービッド・スミスが39歳と高齢化の傾向にあり。コンディショニングも敵だ

 

2022年に代表活動を全休したホルト「私には休息が必要だった」

 

 そうしたハードな戦いに身を投じてきた多くのトッププレーヤーたちのなかで、代表シーズンを丸々休養に充てたのが男子アメリカ代表のマックスウェル・ホルトだ。2009年から代表に名前を連ね、2016年リオデジャネイロオリンピックで銅メダルを獲得。個人としてもイタリアやロシアのリーグで強豪クラブに名前を連ね、数々のタイトルを手にしてきた世界で指折りのミドルブロッカーである。

 そのホルトは東京2020オリンピックの翌年、2022年の代表活動に参加しない選択をした。昨年、パリ五輪予選/ワールドカップバレー2023で来日した際にその理由を聞くと、このように語った。

「私には休息が必要でした。というのも、プロ選手としておよそ15年間、毎年ほぼノンストップでプレーしてきたものですから。精神的にも肉体的にも、パリオリンピックに向けてプレーを続けられるか不安だったんです。なので、代表から一度離れて夏休みをとることにしました」

 

 身長205㎝、最高到達点351㎝の体格を生かしたブロック力は、組織的なブロックを代名詞とするアメリカ代表において、今なお絶対的な武器だ。30代半ばを越えた年齢を踏まえれば、いずれやってくる現役引退はもちろん、ホルトの離脱は痛手にほかならないだろう。けれども、チームは理解を示した。長年、男子アメリカ代表の指揮を執るジョン・スパロー監督もまたベテランミドルブロッカーの決断を歓迎した。

「マックス(ホルト)のようなベテラン選手が夏季休暇をとるのも悪くないと思いますね。彼は明らかにリフレッシュして戻ってきましたし、よりエネルギッシュに、そして高いレベルでプレーする準備ができていました。ほんとうにプロフェッショナルな選手ですよ」

 

 

指揮するスパロー監督(右端)も選手の意思を尊重した

 

 

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コートに立てば存在感は絶大。攻守でアクセントになるホルト

 

仕事であるプレーで結果を出す、選手たちはそのための選択を下す

 

 力を発揮するために、チャージする期間を設ける。その決断はプラスの効果をもたらした。ホルト自身も、それを実感していた。

「休暇自体は短いものでした。ですが、また代表に戻ってきたときには『みんなを手助けしたい』、そして『パリオリンピックで金メダルを獲る、僕たちの夢に挑戦し続けたい』という思いが私の中で今までにないほどに強くなっていました。それに、出場権獲得のために予選がどれほど大事か十分にわかっていましたからね」

 

 2023年に代表にカムバックしチームに貢献するホルトの姿を、キャプテンのマイカ・クリステンソンは誇らしく口にした。

「彼はほんとうに経験豊富なミドルブロッカーですし、インクレディブルな(突出した)存在ですから。彼が加わることで、チームがさらに高まるんです。戻ってきてくれたことを心からうれしく思いますよ」

 

 果たして男子アメリカ代表は予選を首位通過し、パリオリンピックの切符を獲得。失意の10位に終わった東京2020大会のリベンジ、そして通算4度目の金メダルへ向けて、一気に加速したのである。

 

 ホルトのような例は、アスリートの“キャリアのアクティブレスト(積極的休養)”と表現できるだろう。心身ともに良好な状態を整えるために休む、それが次の戦いに向けた最適な準備となるのだ。

 選手たちは、選手である以上、プレーすることが仕事。そこでは結果を求められ、同時に自身も結果を求める。2023年は代表活動もあってハードな1年間を過ごした柳田は不安を口にしつつも、「僕は自分から望んで、アジア競技大会を戦う日本代表に参加しましたから。プロとして活動する以上、自分の選択を結果につなげなければいけません」とその向き合い方を語っていた。ホルトもまた、パリオリンピックで結果を出すために、休養という選択をしたのである。

 

 

⑫ホルトを中心とした組織的なブロックは男子アメリカ代表の代名詞

 

 

「バレーボール以外の人生を大切にできるように」とスパロー監督

 

 その意思を尊重したスパロー監督は、バレーボール界に携わり選手を導く立場から、私見を語ってくれた。

「私も過密日程は問題だと感じます。プロ選手として活動して多くの収入を得る、その選手がいるからこそプロリーグも収益を上げられる。と同時に、選手たちは誇りを持ち、我々の場合は“チームUSA”として、代表チームでプレーすることを望んでいます。

 何が解決策になるかはわかりませんが、スポーツにおける“最も重要な資産”であるプレーヤーたちをいかにケアするかは、今後も考え続けなければならないのは確かですね」

 

 そうして最後に、スパロー監督はこう付け加えた。

「我々指導者は、選手たちが家族と過ごす時間を持ち、バレーボール以外の人生を大切にできるように取り計らうことを第一に考えています。プロ活動のない夏の時期は、練習は一日一回、週末は休ませる、といった具合にね。家族と充実した時間を過ごしてもらう、そうして家にいること自体が、いい仕事を生むのですよ」

 アスリートである前に、一人の人間としての幸せを。そのことを前提として、選手とスタッフがともに歩む男子アメリカ代表。“夏休み”に趣味のギターを手にとり、愛犬ヴィヴィと過ごした時間が、ホルトにとっては何よりのカンフル剤であったのだ。

 

 

家族のような雰囲気をまとう男子アメリカ代表。それもまたチームの魅力であり武器だ

 

※パリオリンピック プール戦/日本vs.アメリカは日本時間で8月2日(金)28:00-に実施予定

 

(取材・文/坂口功将 写真:Volleyball World)

 

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