令和6年度全国高等学校総合体育大会バレーボール競技大会(北部九州インターハイ2024)男子の決勝トーナメント1、2回戦が、ダイハツ九州アリーナ、中津体育センター、SWS西日本アリーナ日田(いずれも大分)で8月2日(金)に行われた。近畿大会王者の洛南高(京都)は、決勝トーナメント2回戦で大同大大同高(愛知)と対戦。予選グループ戦の鳥取中央育英高(鳥取)戦と同じく第1セットを落としたが、そこから逆転勝ちをつかんだ。1年生時からトスを上げる樋口卓朗が大会直前に骨折する緊急事態、その試練を一丸となって乗り越える
伊地智雄三コーチ(左)とともに得点を喜ぶ樋口
大会2日前に左足の小指を骨折
松葉杖をつきながら、樋口卓朗は一緒に戦っていた。6番のユニフォームではなくポロシャツ姿。胸にはマネジャー登録を示す「M」のバッジをつけた。「一人になったら思うことはたくさんあります」という傷は、胸の奥にしまう。ベンチではコート内の選手と一緒に拳を突き上げ、タイムアウト間にはアドバイス。
「もっといろんな人に(トスを)回していいよ!」
「顔、笑ってへんで!」
全国大会デビューながらも、途中出場でチームを逆転勝ちに導いた2年生セッター清水愛音は、樋口に感謝した。
「自信を持って楽しんでやれよ、と言ってくれて。コートの外からずっと声をかけてくれて、心の余裕になりました」
開幕を2日前に控えた7月29日。樋口に悲劇が起きた。
「宿舎が山にあって、階段を下りきった1歩目の地面が地割れみたいに上がっていました。着地するときにひねりました」
「ちょっとひねったぐらい」のはずが、時間が経つにつれて痛みが増す。翌日に病院に行くと、左足小指の中足骨が折れていた。全治3ヵ月。インターハイだけでなく、10月の国スポも間に合いそうにない。
「いつも先生(細田哲也監督)から日常生活も気を抜くなと言われていて。最近は自覚を持って過ごしていたんですけど。ちょっとしたことでインターハイも国体(国スポ)も出られなくなるとは思わなくて。最初は受け入れられなかったです」
1年生時からレギュラーで、細田監督が「うちの精神的な柱」と認める司令塔の離脱。絶体絶命の状況だからこそ、指揮官は選手たちに語りかけた。
「樋口を欠いて、真の王者になれるかどうかを試されているんだ」
タイムアウト間に⑩吉田海斗にアドバイスを送る樋口
司令塔の離脱にチームが団結
予選グループ戦は3年生の土田岳を起用し、鳥取中央育英高に逆転勝ち。そして決勝トーナメント2回戦では、後がなくなった第2セット中盤に土田と代わって清水がコートに入った。樋口に代わって大会直前に急きょメンバー入り。それでも、指揮官が「どんなときでも声を出してくれる。(インターハイのように登録メンバーが)12人でなければベンチに入れておきたい存在」という盛り上げ隊長が、閉塞感を一掃した。
「昨日もちょっと雰囲気が暗くて。自分が入ったらどんな1点でも絶対に走り回ってやろうという思いがありました」
後輩に導かれるように、3年生スパイカー陣の表情も明るくなっていく。エース中上烈キャプテンも奮起した一人だ。
「全力で楽しく、ほんとうに自然にプレーしてくれて。自分たちもほぐれました。後輩が(トスを)上げてくれるんやから、決めなあかんという気持ちはありました」
第2セットを25-21で取り返すと、第3セットは中盤に中上の連続得点などで一気に突き放して勝利。洛南高らしい勢いが戻ってきた。
3日(土)は3回戦で市立尼崎高(兵庫)と戦い、勝てば準々決勝へ。清水は「(樋口)卓朗さんのようにしっかりとブロックを止めて、卓朗さんを驚かすようなトス回しがしたいです」と誓った。ベンチ内外が一丸となって、逆境をチャンスに変える。
大仕事を果たした清水。「卓朗さんのようなトス回しをしようと思っていました」と試合を追うごとにエース以外の打数も増えた
文・写真/田中風太(編集部)
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