令和6年度全国高等学校総合体育大会バレーボール競技大会(インターハイ2024)女子は7月25日(木)から29日(月)までダイハツ九州アリーナ(大分県中津市)で行われ、金蘭会高(大阪)が2年ぶり3回目の頂点に輝いた。昨年11月に左足を手術した平野シアラ(3年)が今大会で復帰。アンダーエイジカテゴリー日本代表を7人擁するタレント集団に、頼もしい戦力が帰ってきた
3年生での復帰を目指して
昨年11月に手術を決断
試合前にもかかわらず、平野の頭は真っ白になった。
「あ…、え?」
いきなりの大一番となった予選グループ戦の東九州龍谷高(大分)戦。合同練習の最中に、池条義則監督からスタメン出場を告げられた。昨年10月の国体以来の全国大会。「前みたいなプレーができひんのはわかっていたから。今の自分ができることをやろう」。そう腹をくくれた裏には、乗り越えた苦しい半年間があった。
現3年生が入学した2022年以降、池条監督がたびたび口にしたのは「ライト探し」。上村杏菜(現PFU)ら強力なエースはいたものの、オポジットのピースがなかなかハマらなかった。その問題に終止符を打ったのが平野だ。高さのあるブロックと強打で昨年からレギュラーに定着すると、国体では準優勝に貢献。だが、「結構痛かったです」と中学2年生時に前十字じん帯を断裂したことがある左足にダメージが蓄積していた。
春高府予選を終えた昨年11月。検査をすると前十字じん帯の再断裂が判明した。それだけではなく、「じん帯の周りが全部ダメになっていた」と軟骨なども損傷。プレーを続けられる状態ではなかった。
「動けていたから大丈夫でしょと思っていたら、全然そうではなくて。これ以上バレーをすると、高校はやりきれたとしても一生バレーができない足になってしまうと言われました。春高に出たい気持ちもありましたが、自分たちの代に懸けようと思いました」
11月下旬にメスを入れ、そこから4週間にわたる車椅子生活。歩くだけで足は震え、ひざははれた。「ほんまにバレーできるんかな」。復帰のメドは9ヵ月で、コートに立つ姿を思い描けない。金蘭会中(大阪)から切磋琢磨する仲間たちの活躍も、焦りに変わった。
「今まで一緒にコートの中で頑張ろうと言っていたのに、みんながうまくなっていて、ずっと焦っていました。焦って、泣いて、(青森にいる)親に電話して(笑) ほとんど毎日泣いている状態でした」
だが、力をくれたのもその仲間たちだった。
「ずっと待っているよ」
「また一緒に日本一を獲ろう」
手術前日に届いた同級生からのメッセージ動画が、折れそうになった心を支えてくれた。
「みんなが待ってくれている。どれだけ遅くなってもいいから、コートに戻ろう、って」
着実にステップを踏み、今年の5月上旬にはスパイク練習を再開。そして、7月上旬に実践練習に入った。今大会直前の合宿ではなかなか状態が上がらず、「ジャンプ力が落ちて今まで届いていたボールに届かなかったり、ブロックでしめるタイミングが悪くなっていて。でも、それはしかたがない。焦らずにゆっくりやろうと思います」と語ったが、戦いが始まると自身の想像を上回るパフォーマンスを見せた。
途中出場の決勝は
アタック決定率100%
予選グループ戦の東九州龍谷高戦では「思っているよりも決まったし、(ブロックで)止まった。今の自分では結構できたと思います」とストレート勝ちに貢献。準決勝での同校との再戦では4本のブロックを決め、何度も拳を突き上げた。そして就実(岡山)との決勝。連戦によるコンディションを考慮してベンチスタートだったが、2-0の第3セットからコートに立った。
「ヒザの状況を考えてくれていたのはわかっていたけど、やっぱり悔しくて。でも、(池条監督から)『乱れたときに使うぞ』と言ってもらったときに、信用してくれていると思いました。みんなが頑張ってくれたから、3セット目は自分が頑張るだけでした」
優勝を決めるスパイクを含め、決定率は驚異の100%(6打数)。「結構頑張りました(笑) 大会に入ってからジャンプ上がってきているのは感じていて、決勝でいいスパイクを打てたのはよかったです」と充実の汗をぬぐった。
長いトンネルを抜け、開けた視界。平野にはかなえたい目標がある。
「まだ国スポ、春高と2つの全国大会が残っているから、そこでも日本一を取って。金蘭(会高)で今まで1回しかない三冠を成し遂げたいです」
仲間たちへの恩返しは、この一度で終わらせない。
平野シアラ
ひらの・しあら/3年/身長176㎝/最高到達点285㎝/金蘭会中(大阪)/オポジット
文・写真/田中風太(編集部)
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