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駿台学園中男子が全国大会で“決勝だけの特別な儀式”を準々決勝で解禁した理由と貫いた全力バレー

 バレーボールの第54回全日本中学校選手権大会(全中)は822日から25日に福井県を舞台に行われた。頂点を目指した夏。過去7度の日本一を誇る男子の駿台学園中(東京)は24日、準々決勝を前にある儀式を行った。

 

 

全国大会4連覇の実績を持つ男子の駿台学園中

 

 

824日、全中の準々決勝に臨んだ駿台学園中

 

 それは選ばれたものだけに与えられる権利であり、勲章でもある。過去、全中では第38回大会から第41回まで4連覇の偉業を成し遂げ、男子では歴代最多7度の日本一に輝いている駿台学園中が、その決勝を前に必ず行う儀式。むしろ、そのときにしか行わない。

 メンバー全員で肩を組み、大きな輪をつくると、リズムに合わせて声を張り上げる。民謡舞踏の「ハーモニカ」だ。

 

 その特別な儀式を今年、駿台学園中は準々決勝の直前に披露した。本来であれば、そこから2試合を勝ち上がり、最終日のセンターコートで繰り出すはずなのに。

 

「先生、やっていいですか?」

 提案したのは就任して8年目になる石井秀利コーチだった。そして海川博文監督もうなずく。2019年の第49回大会、和歌山全中の決勝以来で、パンドラの箱を開けた瞬間だった。

「そう簡単にはやらないものなんですよね。自分たちのモチベーションを上げるため、そして会場の空気をものにするために、ここいちばんのときにしか繰り出さない、伝統の表現ですから」(石井コーチ)

 

 

城南中戦を前に繰り出した「ハーモニカ」

 

相手は優勝候補の城南中(広島)。「この試合が決勝だ」

 

 準々決勝なのに、なぜ“最終奥義”ともいえる一手を打ったのか。それは、ここが大一番だと踏んだからだった。

 相手は世代トップのアタッカーと評される寺岡蒼大をエースに据え、優勝候補と目された城南中(広島)。駿台学園中はこれまで練習試合を組むものの、1セットも奪えずにいた。星越大輝キャプテンは決勝トーナメントの組み合わせがきたときの胸中をこう明かす。

「この1年間、日本一を目指してきて、僕たちはずっと『城南と決勝を戦うんだ』と言ってきました。ですが決勝トーナメントの組み合わせが決まり、それはかなわず、準々決勝で当たることになった。ならば、『この試合が決勝だ』と臨みました」

 

 その思いを汲み取ったからこそ、石井コーチは「ハーモニカ」を提案したのである。

「全力で、全部を出しきらなければ絶対に勝てない相手だとわかっていましたから」

 

 ゴーサインを出した海川監督も「ほんとうは決勝でやりたかったけどね」と言いつつ、「ハーモニカ」を繰り出す部員たちの姿を見て、今シーズンのこれまでに思いを馳せていた。

「関東大会でも一回戦は4点リードされた状況から始まって…。正直、いつ負けるか、と思いながら全中まで来ました。

 準々決勝の城南戦は150%の力を出さないと勝てない。石井コーチから『ここが勝負だからやります』と言われ、『いいよ』と。まさにそのとおりだと思いましたし、ここで勝っていれば、おそらくは優勝も見えていたでしょうね」

 準々決勝を終えて、駿台学園中を7度の日本一に導いてきた名将は、そう語った。

 

 

城南中のエース⑥寺岡(コート奥)の強襲を浴びる

 

 

【次ページ】「ベストゲーム」と石井コーチ。海川監督も「よく頑張った」と称えた

準々決勝敗退も、海川監督(左端)は選手たちをねぎらう

 

「ベストゲーム」と石井コーチ。海川監督も「よく頑張った」と称えた

 

 結果として、またしてもセットを取ることはできず、0-220-25,23-25)で敗れる。8度目の日本一を目指した戦いは、ここで幕を閉じた。もちろん悔し涙があふれ出たが、駿台学園中の面々はどこか清々しい。選手たちの姿を身近で見てきた石井コーチは称えた。

「今まででいちばんよかったですね。実力はあるのに、心の弱さや気持ちの面で最後は負けてしまう、そんな代だったんです。ですが準々決勝は気持ちが全面に出ていた。ほんとうにこの1年間で、ベストゲームだったと思います」

 

 中でも気迫全開だったのはキャプテンの星越だ。海川監督いわく、「人一倍に男気がある」星越はコート上でのリーダーシップに加え、アタッカーとしても目いっぱいにスパイクを放つ。その姿に海川監督も「ほんとうに頑張りましたね。みんなを引っ張ったし、あそこまで打ち抜くとは」と手放しで称賛した。

 

 その星越は一つの決意を胸に、全中へ臨んでいた。応援席には横断幕ともう一枚、メンバーたちの手書きが施された布が掲げられていた。それは関東大会決勝で安田学園中(東京)に敗れたあとに、全員で話し合って決めたものだという。そこに、星越しが記した言葉は「俺についてこい!!」だった。

「エースは自分だ、と思ったので。最後の最後まで、みんなには自分を頼ってほしかったんです」

 結果的に最後となった戦いで、仲間たちは背番号「1」に何度もトスを託した。「最後まで自分にボールを上げてくれた。書いてよかったです」と星越は笑顔を浮かべた。

 

 

中学生活最後の全国大会を終えて、星越の目には涙

 

 

150%の力を発揮して負けたので。悔いはありません」(星越)

 

 星越は駿台学園中に入学する前、チームの紹介ビデオを受け取っている。それは2019年の和歌山全中の映像であり、そこでは駿台学園中の部員たちが大きな円をつくって「ハーモニカ」を繰り出す場面が映っていた。果たしてチームは日本一に輝き、これは現時点で最後の全国制覇となっている。

「それを見て、知りました。憧れましたね」と星越。とはいえ、そう簡単にできるものではない。石井コーチが言うに、「3年生たちからは『やりたい』『やらせてください』という声は上がる」のだが。

 

 そんな神聖な儀式を解禁した。石井コーチが海川監督に打診し、実際にやることが決まった瞬間から星越は胸が弾んだ。

「ギアが一個、二個上がりました。それに踊っているときは、ほんとうに楽しかったです」

 敗れはしたものの、「自分たちが150%の力を発揮して負けたので。悔いはありません」と星越。試合後に清々しさを覚えたのは、彼らが全力プレーを最後の瞬間まで貫いたからだ。海川監督は言う。

「チームワークと粘り強いバレーを見せてくれました。それこそが駿台学園の伝統であり、我々は何よりも一生懸命にやることが第一ですから」

 そうさせるために、儀式の封を解いたのか。それとも、儀式をやったからこそ、そうなったのか。確かなのは、今夏の全中を戦った彼らが「ハーモニカ」を踊るにふさわしい選手たちだった、ということである。

 

 

星越が手書きでしたためた決意の言葉。思いを胸に戦い抜いた

 

(文・写真/坂口功将)

 

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