2024女子U17世界選手権大会が8月17日(土)〜24日(土)にリマ(ペルー)で行われ、U17女子日本代表は銀メダルを獲得した。ベストアウトサイドヒッター(OH)賞に輝いたのが身長168㎝の中山沙也(金蘭会高〔大阪〕1年)。自ら切り開いたバレーボール人生が、初の国際大会でも力を発揮させた
U17日本代表で着用したユニフォーム、そして銀メダルを手に笑顔の中山
高いブロック相手に磨いたストレート打ち
日本選手団の最後列に並びながら、中山沙也はささやかな反省会をしていた。閉会式を待ちながら三枝大地監督と言葉をかわす。
「中国のブロック、やっぱり高かったなぁ」
直前に行われた決勝。ストレート負けを喫した高い壁を思い返しながら、指揮官の言葉にうなずいた。視界が急に明るくなったのはそのすぐ後だった。「え、何?」。スポットライトを浴び、会場中の視線が集まる。チームメートが声を上げた。
「沙也、ベストアウトサイドヒッター賞やで!」
夢か現実かわからないまま壇上へ。「全然やり方がわからなくておどおどしていました」と笑いながら、中国、イタリアの選手たちと肩を並べた。「やっぱり自分って小さいな」。世界だけでなく、日本チームでも小柄な身長168㎝のスパイカーがタイトルを受賞。8日で7試合の過密スケジュールの最後にご褒美が待っていた。
初の国際大会も驚きから始まった。期末テストを終えた7月中旬。およそ1週間後に行われる今大会の最終合宿に急きょ招集された。「もしそういう経験ができるならと思って、すぐに親に言いました」。と、話を受けた翌日にはパスポート取得の手続きへ。迷うことなくチャンスをつかみにいった。
どちらかといえば高さのあるトスを打ちきる金蘭会高とは違い、U17日本代表は「結構トスが早かったり。そこはちょっと違うなと思いました」と戸惑う部分もあった。だが、宮嶌里歩(文京学院大女高〔東京〕1年)や頼冨果穂(武中〔鹿児島〕3年)ら、中学時代に対戦した選手たちに温かく迎えてもらい、チームに順応した。なかでも力を入れたのがストレート打ち。国内にはない高いブロックを攻略すべく、引き出しを増やした。
「金蘭(会高)でも教えてもらっていましたが、打ちやすくて決まるクロスに打ってしまっていて。だけど、U17日本代表では徹底的にそこを練習しました。(トスを)伸ばして、ストレートに打ってみたら決まるんだな、って。大会でもやってみようと思いました」
表彰式では、自身より頭一つ分大きい中国、イタリアの選手たちと肩を並べた©FIVB
自分より頭一つ分以上高いブロッカーに打ち込む分、阻まれればダメージは大きい。「またブロックされた」「また拾われた」。嫌な残像ばかりが脳裏に焼きついたが、コンスタントに数字を残した。全試合にスタメン出場し、7試合中2試合でチーム最多得点。中国と戦った最終日には「ブロックがすごく高かったですが、ストレートに打ったら意外と弾けることがわかって。クロスは拾われたりブロックされるから、ストレートに多めに打ちました。ストレート打ちができるようになったのは大きいと思います」と自信が芽生えていた。
小学生時に憧れて神奈川から大阪へ
自ら道を切り開かなければ、たどりつかなかった舞台かもしれない。現在は共栄学園高(東京)の主力を務める姉の楓とともに、小学2年生で始めたバレーボール。4年生時に足を運んだ東京体育館(東京)で、運命を変える試合を見た。金蘭会高が東九州龍谷高(大分)を下した2019年の春高決勝。中川つかさ(NEC川崎)、西川有喜、宮部愛芽世(ともにJT)らスター選手がそろっていた。プレーはもちろん、引きつけられたのは選手たちの表情だった。
「すごく楽しそうにバレーをしていました。どのチームも強かったけど、金蘭は楽しそうで、カッコよくて。ここにいきたいな、と憧れました」
両親にすぐに伝えた。「ここに行く!」。全国大会に出たことはなく、ましてや地元の神奈川県から離れた関西のチーム。両親は「夢は大きく持とうね」と返したが、中山はその思いを抱き続けた。金蘭会中(大阪)の卒業生がいる比叡平(滋賀)の小野由美子監督との縁もあり、6年生時に同中の練習体験会に参加することに。「びっくりしていました」という両親は、「最終的には自分が決めることだから」と背中を押してくれた。
小学5年生で165㎝あり、「スパイクだけ打っていたらOK、みたいな。派手なプレーが好きで、レシーブは全然できなかった」と振り返る小学生時代。だが、当時全中優勝4回を誇る名門に入ると、すぐに鼻っ柱を折られた。そのころの得点源は西村美波や平野シアラ(現・金蘭会高3年)ら身長170㎝台後半の3年生たち。佐藤芳子監督からの「小さい選手はレシーブができないと、これからやっていかれへん」という言葉でスタイルを見直した。「人としてもそうだし、バレーでもほんとうに細かいところを学びました」という3年間。3年生時に全中で4連覇、そしてJOC杯でも優勝と華々しいフィナーレを飾った。
中学3年生時の全中では、エースでキャプテンとして日本一に貢献
憧れのユニフォームを身にまとうときがきた。だが高校入学後、再び熾烈(しれつ)な競争が待っていた。
「JOC杯でも勝たせてもらって、『高校も頑張ろう!』という気持ちで入りましたが、思ったよりもレベルが高かった。全然ついていけませんでした」
中学時代に全国で鳴らしたスパイクは決まらず、対照的にブロックの上からたたき込まれる。特に1年生時からアンダーエイジカテゴリー日本代表としてプレーするリベロの西川凜には「ほんとうに凜さんだけには決められなくて。チャンスボールみたいに上げられます(笑)」と実力不足を痛感させられた。
「全然通用しないな」と苦笑いを浮かべながらも、そこで引き下がらない。西川に「打つコースがわかりやすい」と言われれば、「どうしたらわかりづらくなるだろう」とセッターの丹山花椿らにアドバイスを求めた。入学前の全国私立高等学校男女選手権大会(さくらVOLLEY)でデビュー。インターハイでは主にリリーフサーバーとして金メダルを手にした。西村、大森咲愛に次ぐ3番手ながら、アウトサイドヒッターのレギュラーを狙う。
台風10号が接近していた8月下旬。同級生の吉田桜香とともに、ペルーから帰国しチームに合流した。銀メダルを獲得し、ベストアウトサイドヒッター賞の勲章も得た。海外の壁を相手に大きく成長し、仲間たちにこれまでとは違う姿を見せる、はずだった。
「『ストレートに決まるようになった!』と思って帰ってきたのに、(レシーバーが)そこにいることが多くて。『あれ?』みたいな(笑) 帰ってきて練習したら、やっぱりレベルが高いなって。世界よりも金蘭の先輩のほうがすごかったです」
「『よりも』と言うと失礼だけど」とすぐに訂正したが、それは本心だろう。そして、目を輝かせて言った。
「もっともっとうまくなろうと思いました」
撮影のために持ってきた日の丸のユニフォームをていねいにしまった。「金蘭、ほんとうに楽しいです」。笑顔でそう語ると、先輩たちが待つ体育館へ足早に向かった。
リリーフサーバーからレギュラーの座を目指して。挑戦は続く
中山沙也
なかやま・さや/身長168㎝/最高到達点289㎝/金蘭会中(大阪)/アウトサイドヒッター
文/田中風太(月刊バレーボール編集部)
写真/石塚康隆(NBP)、編集部、FIVB
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