体育館に帰ってきた栁田百織。撮影時も周囲を笑わせるエンターテイナーだ
令和6年度天皇杯全日本バレーボール選手権大会関東ブロックラウンドが10月20日に小田原アリーナ(神奈川)で行われた。
Vリーグの富士通カワサキレッドスピリッツはBグループ決勝で早稲田大にフルセットの末に敗れ、ファイナルラウンド進出は逃した。スタンドから選手たちを鼓舞したのが、10月18日に古巣への現役復帰を発表した栁田百織だ。V・チャレンジリーグ、そしてV2で4連覇を含む5度のリーグ優勝に貢献したチームの顔は、なぜ昨年5月以来のカムバックを決めたのか。明るく、楽しくその胸の内を語ってくれた。
なお、富士通を下した早稲田大に加え、中央大、東海大、つくばユナイテッドSunGAIAが、12月12日(木)からAsueアリーナ大阪(大阪)で行われる天皇杯ファイナルラウンドへの出場を決めた。
——スタンドからどんな思いで試合を見ていましたか?
(引退して)まだ1年半なので、そんなにコートから長く離れた感覚はありませんが、試合の雰囲気だったり、富士通はほかのチームに比べると独特なカラーがあるので。それを見て懐かしい気持ちになりました。
——栁田選手の声で、より独特な雰囲気が出ているように感じました(笑)
やっぱり試合に出ないとダメなタチだな、とあらためて思いました(笑)
——試合中、オポジットの松本喜輝選手に何度も声をかけていましたね
彼はパワーがあってポテンシャルのある選手です。高さを生かしてしっかりと高いところで腕を振りきることができれば、そんなに止められることはないと思っています。だから、高いところで打てという意味を込めて、「打点になれ!」って(笑) 独特ですが、そういう声かけをしました。
——あらためて現役復帰を決めた理由は何でしたか?
ありがたいことに9月末ぐらいにチームから声をかけていただいて。ただ、リーグが始まる1ヵ月前ということもあって、悩む要因はいろいろありました。でも結局はバレーが好きという気持ちがあり、そこからはシンプルに「バレーがしたいからもう1回やろう」と思うようになりました。チームも必要としてくれているのであれば、そんなにありがたいことはないと思って復帰を決めました。
ただ、32歳でしんどい部分もあると思うので、よりハードワークをしてやっていかないといけません。
まずは引退した2023年以来のコートを目指す
——復帰の提案を受けた率直な感想はいかがでしたか?
1回断りました。試合に出て選手として活躍できない自分を想像してしまうと、復帰はないかなと思って。その場では一回考えさせてくださいと言いました。
でも、チームに必要だと言われたこともそうですし、若手のいい選手たちを退けて活躍できれば、やっていてよかったという気持ちになれると思って。おそらくそこは、どんな状況でも一生トライし続けます。試合に出ることを最優先において、その中でチームのためにできることを探していきたいです。
——昨年5月に引退してからはどんな活動をしていましたか?
YouTubeを始めて(チャンネル名@はだしこぞう)、それをきっかけに、さとゆりだったりYouTuberの方と関わるようになりました。バレーボールだけでなく、バレーにはまったく関係のないいろんなジャンルにもチャレンジしていくということで。スポーツをしていた時間を別のものに使って、それを動画に残したいと思って始めました。現役ほどではないですが、体も動かしていましたね。ただ、筋トレは動画のネタにしようとしたので、とんでもない頻度で行ってました(笑)
——それこそ現役並みにですか?
いや、現役のとき以上ですね(笑) バレーをしていた時間で全部筋トレしていた、という感じです。筋力的な衰えはありませんが、バレーの持久力やスキルは落ちていると思うので、そこは戻していかないといけません。
——体は仕上がっているとはいえ、バレーボールをするうえでのギャップはどう感じましたか?
人それぞれだと思いますが、僕はまだ年齢によるプレーや体の衰えは正直あまり感じていません。先々週ぐらいから富士通の練習に出ていますが、まだまだできるなとは思っています。
ただ、フルパワーを出した翌日の疲労感がやっぱり年齢を感じますね(笑) 体が重すぎて、連日パワーを出す作業がどれだけ大変なことなのか、と思いました。体づくりとケアは慎重にやっていかないといけません。
——引退している間、またバレーボールをしたいという気持ちにはなりませんでしたか?
これは引退してほんとうに思いましたが、時間をかけてきたものがなくなったときに、すごく(バレーボールが)大事だったんだなと気づいて。だから復帰の話をもらったときは、最初は断りましたが、腹の中ではバレーが好きで、よりやりたいと思うようになりました。そのために体づくりもそうですし、現役だったときよりもできることをさらに頭の中で整理できた気がします。
試合前には球出し役を務めた
——復帰してどんな選手になりたいですか?
Vリーグといえば僕、と思われるような選手になりたいです。ありがたいことに復帰した(SNSの)投稿も、すごくいろんな方にリアクションをいただきました。期待されているからにはやはり、「Vリーグに栁田がいる」と思われる選手になりたい。これには年齢は関係ないのでトライしていくつもりです。
——小学生のころチームメートだった柳田将洋選手(東京GB)からも連絡はありましたか?
「おかえり」と連絡がきたので、「わりと早く戻ってきたわ」って返しました(笑) またどこでどうマサ(柳田)と混ざり合うかはわからないので。そのときが来たときに、自分が選手としてきっちりと戦えるようにしていきたいです
——今シーズンからVリーグも生まれ変わります
僕が引退する前までは、富士通は明るくてファンサービスをすごくするチームという印象を持たれていると思いますが、同じことをしたくありません。復帰するからには何か付加価値をつけたいと思って、今はその内容を考えています(笑) パフォーマンスやプレーもそうですし、目に見えてわかるものを増やして臨みたいです。そこは期待してください(笑)
——ファンの皆さんへメッセージはいかがですか?
現役のときからずっと言っていますが、スポーツは見てくれる人のための娯楽であると思っています。いろんな楽しみ方があるなかで、とにかく見ている人に楽しんでもらいたいです。僕たちを見て楽しい気持ちになったり、見てよかったと思えるようなパフォーマンスをすることが僕のプロ意識の一つ。そこに期待してもらえれば楽しめるのではないかと思います。
引退した23年の黒鷲旗で、柳田(右)と記念撮影。またコートで再会する日が来るかもしれない
栁田百織
やなぎだ・もおり/1992年9月6日生まれ/身長184㎝/市立船橋高(千葉)→順天堂大/オポジット
取材/田中風太(編集部)
撮影/山岡邦彦(NBP)、編集部
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