“大塚達宣たちの世代”荒井大雄が人生二度目の全国制覇「バレーボールを捨てられない」と確かめた、安田学園中でのコーチ生活と次の夢
- 中学生
- 2024.11.08
エース①竹内祐一郎を攻撃の軸としたコンビバレーで頂点に立った
「選手たちにありがとう、という気持ちです」(荒井)
迎えた全中本番。「自分たちの頃と大会の雰囲気は似ているなと感じましたが、そのときよりも緊張といいますか、ソワソワしていました」という荒井“コーチ”とともに、チームは全国の頂へ一段ずつ上り詰めていく。
「正直、準々決勝までは不安な試合内容ではありましたが、決勝まで『やってくれるだろう』とも思っていました。平栁先生がおっしゃっていたように、勝負強さが彼らに備わっていたので、そこは信じて見ていました」
ただ実のところ、全中最終日に荒井の姿は会場になかった。準決勝と決勝が行われた8月25日は、東京都の教員採用試験の第二次選考の実施日。荒井にとってもまた“大勝負”の日だった。
「採用試験は午前中だったので、全中の準決勝は『勝ってくれ〜』と祈りながら試験に臨んでいました。決勝はライブ配信もあったので、家族と一緒に画面越しに見ていました。優勝した瞬間はもちろんうれしさもありましたが、安心感が強かったです」
選手たちに力があることはコーチである自分が何よりもわかっていた。あとは選手たちを信じるのみ。自身も彼らと同じ年齢のときに、同じ大会で、同じ結果を残したが、その胸中は異なった。
「自分のときはうれしさと一緒に『やってやったぞ!!』みたいな感覚がありましたけど、いざ指導者からすれば『教えてよかった』って。それに、僕自身もこれからの指導者生活で生きる経験ができてよかったと思えます。だから、選手たちにありがとう、という気持ちですね」
そう、荒井もまた自身の大勝負を制し、来年春から指導者としての道を踏み出すことを決めていたのである。
優勝祝賀会で部員たちと一緒に喜びに浸る荒井(左から2番目)
荒井は光野中で全中を制覇したのち、“サーカスバレー”で高校バレーボール界を席巻した大塚高(大阪)に進学すると、3年生時にはキャプテンマークをつけて全国の舞台に立った。時同じくして、中学のチームメートだった中島明良は洛南中(京都)へ進み、こちらは大塚達宣(ミラノ)や垂水優芽(チステルナ〔ともにイタリア〕)、山本龍(アオンズ・ミロン〔ギリシャ〕)といった、のちの日本代表が並ぶ強力メンバーを擁して結果的に春高を制した。その“洛南カルテット”が話題の中心となったこの年代において、チームとして目立った成績はなくとも、荒井もまた同年代をリードする一人だったのは確かである。そんな荒井が教員を目指そうと思ったのは、聞くに高校生の頃だ。
「高校3年生ぐらいですね。元々、人に教えるのが好きだったので将来は教員になろうと考えていたんです。大学で競技を続けて、そのときは『別にバレーボールでなくても、体育を教えるのもおもしろいな』と思ったので大学院に進むことにしました」
バレーボールにこだわりはなかった。だが、この夏の出会いが荒井の本心を引き出した。
「安田学園中を見て、やっぱりバレーボールを捨てられないな、って。バレーボールを教えたいと思いました」
今夏の経験を胸に、指導者としての道を歩み出す
大塚達宣たち同年代のプレーヤーたちへの思いとは
人生で二度目となる全中優勝を果たし、荒井は今、都内の学校で教育実習の身にある。ただし、そこではまるで競技初心者の学生たちを一から教えている。
「おもしろいですよ。今はローテーションを教えているんです。それこそバレーボールをやったことがない子どもたちなので、『ローテーションって何?』から。僕からすれば、『ローテーションがわからないこと自体がどういうこと!?』と考えられない境地ですからね。でも、そうして教えること自体が楽しいなと思えています。
(来年春の)赴任先が中学か高校かはまだわからないですけど、もし中学を教えることになったら、いずれ将来は…。【選手】【コーチ】それに【監督】すべての立場で中学日本一になりたいですね!!」
かつてしのぎをけずった同年代の中には、大塚に代表されるように競技者としてトップレベルを戦っている面々もいる。そうした存在は、荒井にとっては励みになっている。
「自分たちの代って、上下の代と比べられがちなんですよ。そして大概は『(大塚)達宣しかいない代』なんて声を耳にします。でも、垂水や(山本)龍にもどんどん活躍してもらって、『僕たちの代もいいな』と言ってもらいたいですね。今も彼らとは連絡を取り合う仲です。時々、達宣とは『この間の試合よかったね』と話したり、(同郷の中島)明良ともごはんに行きました。みんなに刺激をもらっています。僕も指導者として頑張りたいですし、彼らみたいな選手に育てたいな、と思いますね」
道は違っても、友情でつながっているかぎり。そこから大きな夢が広がっていく。
(文・写真/坂口功将)
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