「オレは小川智大じゃない」自問自答し続けたWD名古屋 市川健太。苦悩と成長の末につかんだ初のPOM
- SV男子
- 2024.11.14
バレーボールの「2024-25 大同生命SVリーグ」を戦う男子のウルフドッグス名古屋は11月9日、エントリオ(豊田合成記念体育館/愛知)で今季ホームゲーム初勝利を飾った。その試合で山崎彰都と並んでPOM(プレーヤー・オブ・ザ・マッチ)に選出されたのがリベロの市川健太。在籍3季目、自身初の表彰だった。
市川健太(いちかわ・けんた/身長175㎝/最高到達点317㎝/大村工高〔長崎〕→日本体大/リベロ)
絶対的守護神が抜けたシーズンで
目の前にそびえ立つ巨大な壁が、突然消えた。そこに開かれた道を意気揚々と進みたくとも、それが茨(いばら)の道の場合がある。市川にとっては、まさにそんな状況だった。
昨季かぎりでチームの絶対的守護神だった小川智大が退団(ジェイテクトSTINGS愛知へ移籍)。小川といえば、昨季まで3度のサーブレシーブ賞に輝き、2020-21シーズンから3季連続でベストリベロ賞を受賞するなど、まさにリーグ最高クラスのリベロである。今夏のパリオリンピックのメンバー入りは果たせなかったが、当時の男子日本代表監督のフィリップ・ブランは山本智大(大阪ブルテオン)と合わせて“世界トップレベル”と称した。
市川は2022-23シーズンにWD名古屋に入団するも、同じポジションにはその小川が君臨している。なかなか出場機会が巡ってこないまま、2シーズンを過ごした。そうして小川がチームを去り、今季を迎えたわけだが――
「うれしさ1割、不安9割でしたね。あの偉大な先輩のあとに自分がどれだけやれるのか。正直、今の実力とスキルでは到底かなわない部分が多いので、『大丈夫かな?』という思いで今シーズンをスタートさせました」
のちにベテランの渡辺俊介が加入するも、リベロとして一番手に名乗りでることになった
「どうしても比べてしまうんですよ」(市川)
本人にとって厳しい戦いになることは周囲も理解していた。バルドヴィン・ヴァレリオ監督は今季の始動にあたって、市川に「こちらも我慢するよ」と伝えている。そこでは「人の倍以上、ボールを触るんだ」というアドバイスも。「僕はバルさん(ヴァレリオ監督)を信じきっているので」という市川は夏場から、チームの全体練習が終わったあとも日々、レシーブ練習に取り組んだ。
「レセプションとディグに分けて、できている部分とできていない部分を明確にして、毎週、毎日、コミュニケーションをとりながら練習していましたし、それは今もです。『徐々にスキルを積み上げてくぞ』というバルさんの言葉を胸に、誰よりも練習ではボールを触るようにしました。きついけれど、とにかく実践の中でやるしかないし、練習するしかないわけですからね」
とはいえ、「取り組んだら自信がつくわけではないんですよね」と市川は言う。できるという手応えを感じると同時に、できないという課題もはっきりするからだ。そして何よりも、今はそこにないはずなのに、巨大な壁が目に映った。
「どうしても比べてしまうんですよ。『オレは小川智大じゃない』と何回も自分に言い聞かせたんですけどね」
バルドヴィン監督(左)は「とにかく何千回もボールをタッチする機会を持つことが大事」と伝えた