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「こんなにやれたら楽しいよ」「将来、なれるように頑張って」国内リーグの現場でトップ選手と中学生“ジュニアチーム”が育む温かな交流

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 ある選手は、トッププレーヤーとしてのお手本を自らの姿で示した。ある選手は、これからのバレーボール界を担う子どもたちへ励ましの言葉を送り、夢をふくらませた。国内最高峰リーグ「大同生命SVリーグ」そして「Vリーグ」の2024-25シーズンの最中、現場で見られた光景がある。

 

 

今年10月にSVリーグ開幕に先んじて実施された「2024 SV-V.LEAGUE U15選手権大会」の男子の模様

 

 

ジュニアチームの面々がトップチームの競技運営に携わっている

 

 照明が落とされ、レーザーライトで彩られたコートに選手たちが一人ずつ駆け込んでくる。パナソニックアリーナの演出に、来場した観客は胸を躍らせる。

 

「すげぇ…」

 ため息まじりに興奮を隠せずにいたのは、コートの角に構える中学生たちも同じだった。彼らは大阪ブルテオンの傘下である「大阪ブルテオンU15」の選手たち。その日はトップチームである大阪Bのホームゲームであり、彼らはボールリトリバーやモッパーとして競技運営に携わっている。これまでにも見られた光景だが、選手によっては緊張している様子も。中学生の一人が、背筋を伸ばして口にする。

「僕、今日が初めてなんですよ」

 

 なんたって目の前では文字どおりトップの、日本代表や世界の名だたる選手たちが試合を行う。そこでミスをしてゲームのさまたげになってはいけない、そんな彼らなりの使命感がうかがえる。

 と同時に、これは彼らが憧れの選手をリアルで見ることができる特別な体験であった。そんな視線を受けること、そして中学生たちが競技運営を手伝うことに、大阪Bの西田有志もまたトッププレーヤーとしての使命感を語った。

「ああして試合をサポートしてくれることをうれしく思います。それに自分が彼らの年代のころは、近くで試合を見る機会がありませんでしたから。

 たとえ機会は多くなくても、まずは試合で勝つ姿を見せたいと思いますし、『バレーボールはこんなにやれたら楽しいよ』『プレーの引き出しが増えたらおもしろいよ』と思ってもらえるようなプレーをしたいです」

 

 

華やかな選手入場に対して熱いまなざしを送る、大阪ブルテオンU15の選手たち

 

 

サントリー大阪の藤中謙也が“後輩たち”へかけた言葉

 

 大阪Bでは彼らのようなU15世代の“ジュニアチーム”や小学生たちのスクール生は、同じパナソニックアリーナで活動している。練習試合が重なることはまれとはいえ、ときには同じ空間にいることも。そんな現実が、憧れを助長させる。

 

 例えば、サントリーサンバーズ大阪ではこんなエピソードがある。ジュニアチームの「サンバーズジュニア」で今季のキャプテンを務めた、仁木遼成(箕面三中〔大阪〕3年)はうれしそうに話してくれた。

「体育館でサンバーズの藤中謙也選手とお会いしたときに、『今から練習か?』と聞かれたんです。そうしたら『将来、サントリーの選手になれるように頑張って』と言ってもらえました」

 

 仁木が憧れの選手に「ミスが少なくて、チームにとって不可欠な存在であるところ」と藤中(謙)を挙げたのも納得だろう。何気ないひと言が、これからのバレーボール界を担っていく彼らにとっては何よりの励みになる。

 

 それは他のチームでも見られる光景だ。今でこそリーグのライセンス要件にジュニアチームを含めたアンダーエイジカテゴリーへの普及・育成が盛り込まれているが、先んじて2010年代から取り組んでいた、とくに男子チームでは同じ体育館でジュニアチームやアカデミーが活動し、それは今も総じて変わらない。

 

 

サンバーズジュニアのエース兼キャプテンを担った仁木(写真中央)

 

【次ページ】ジュニアチーム出身の選手も今後さらに増えていくと予想される

試合会場で競技運営に携わるジュニアチームの面々。写真はWOLFDOGS名古屋U-14(写真/WOLFDOGS NAGOYA)

 

 

ジュニアチーム出身の選手も今後さらに増えていくと予想される

 

 やがて、そうした中学生たちが高校そして大学へとステップアップし、なじみあるトップチームへ“里帰り”を果たすケースも徐々に増えてきた。

 大阪Bでいえばセッターの中村駿介や元選手でマネジャーの牧山祐介はジュニアチーム出身。また現在はイタリア・セリエAのミラノでプレーする大塚達宣も卒団生であり、大学時代もパナソニックアリーナに顔を出しては「ジュニアの練習、手伝いましょうか?」と持ちかけていたほど。

 

 ほかにも東レアローズ静岡では、今季からルーキーとして加入し豪快なアタックでインパクトを残している山田大貴はジュニアチーム出身の“生え抜き選手”。同じように、ウルフドッグス名古屋への内定が発表された山崎真裕(中央大4年)も“ジュニアチーム出身第1号”だ。こうした流れは今後さらに加速すると予想され、また、それが育成組織としてのジュニアチームが持つ役割の一つでもあることには違いない。

 

 リーグ全体におけるジュニアチームの動きとしては、2015年に「Vリーグジュニア選手権大会」がスタート。当時は男子チームのみでの実施だったが、その後は参加チーム数も年々増え、今年は「SV-V.LEAGUE U15選手権大会」と装いを新たに男子24チーム、女子28チームで行われた。昨今では女子でもSVリーグ、Vリーグ問わず各クラブが育成事業に着手し、チームのOGたちが講師として携わるケースも見られる。

 

 

アローズジュニア時代の山田大貴(写真後列左から2番目)。写真は2016年の第2回Vリーグジュニア選手権大会にて

 

 

さまざまなかたちでバレーボール界に携わるきっかけにも

 

 現役としてプレーしながら、若かりしころの自分と姿を重ねる一人は、日本製鉄堺ブレイザーズの重留日向。地元は堺市で、堺ジュニアブレイザーズで過ごしたのちにトップチームへ入団を果たした。重留も以前、ホームゲームで競技運営に励む“後輩たち”の姿を見て、こう話していた。

「懐かしいなという気持ちになりますね。僕も同じように、コート周りに座ってボールを回していた時期がありましたから。ここに戻ってこられるんだよ、という姿をジュニアチームの選手たちに見せられたらと思います」

 

 そんな堺ジュニアブレイザーズの面々は、日本製鉄堺体育館でトップチームのホームゲームが終わったあと、場内の仮説応援スタンドをてきぱきと解体していた。その手際のよさに、見ているこちらも感心せずにはいられない。聞けば、早く片づけると、そのぶんだけ練習時間が増えるからなのだとか。その様子を見ながら、チームを指導する中川大成監督は「プレーヤーとしてだけでなく、試合や大会を運営するうえではこんな役割もあるんだ、と知ってもらう機会になればと思って、彼らには取り組んでもらっています」と語った。

 

 SVリーグは“2030年に世界最高のリーグになる”ことを掲げて現在進行中だ。その旗を振る一般社団法人SVリーグの大河正明チェアマンは「バレーボールをプレーする選手を始め、指導者や審判それに運営に携わるスタッフが、SVリーグにいることを誇りに思えるような場にするのが私のミッションだと考えています」と話す。

 

 ジュニアチームの面々がいずれどんな職業に就くかはさておき、体験したことは将来の人生設計のヒントとなるだろう。そして今の現役選手たちがもたらす温かな熱が、いずれ日本中で昇華されることを願うばかりだ。

 中学生の彼らが社会に出た、まさにそのときが2030年である。

 

 

ホームゲームの撤収を積極的に手伝う堺ジュニアブレイザーズの選手たち

 

(文・写真/坂口功将)

 

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