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3年生7名だけで全国大会に挑んだ大衡中男子。セッター負傷、そのときチームは…/追憶の福井全中〔後編〕

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 バレーボールの中学生世代は1225日から大阪で開催される「JOC ジュニアオリンピックカップ全国都道府県対抗中学大会」が2024年最後の大型公式戦となる。筆者がこの1年間、中学の現場を取材してきたなかで最も印象に残ったチームの姿をここに刻みたい。〔後編〕

 

 

助っ人を加えた3年生7人で全国の舞台に立った大衡中

 

 

コミュニケーションに裏づけされた、チームとしての地力の高さ

 

 新チームが始まった当初は2年生6名のみ。そこに中学校では美術部に所属し、クラブチームでサッカーに励んでいた鈴木輝を加えて総勢7名となった大衡中。最終学年を迎えて集大成となる夏の選手権大会が始まり、着々と勝ち上がると果たして全日本中学校選手権大会(福井全中)へとたどり着いた。それは「ここまで来られるなんて」と千葉照彦監督は喜び、髙橋桜太朗キャプテンも「(チーム始動時は)東北大会に行けたらいいなぁ、くらい」と踏んでいたように、願ってもいなかった舞台だった。

 

 そんな3年生7名のチームがどんなプレーを披露するのか? 取材する側としては興味本位で見始めたが、試合ではなるほど全国大会に立つだけの力はある、と心の中でうならされた。

 というのも、「個の力に頼る部分が多い」と髙橋キャプテンは言ったが、チームとしてブロックとレシーブの関係性を構築し、切り返しては周りのフォローを欠かすことなく得点までつなげる質の高いバレーボールを展開しているのだ。少人数で制限があるからこそ、大切にしていた“チーム内のコミュニケーション”がしっかりとプレーを後押ししている。本職はゴールキーパーのリベロ、鈴木輝もフロアディフェンスの中心となっていた。

 

 取材者としての興味はいつしか「どんなプレーを披露するか」から「どんな成績を残すか」に傾いた。

 

 

質の高いバレーボールを披露した

 

 

大会初戦、第1セット序盤でセッターが負傷退場

 

 だが、こちらの期待とは異なる展開がやってくる。チームにとっての大会一試合目、予選グループ戦の藤枝リアン(静岡)戦は第1セット、10-9の場面でセッターの和野翔がブロックから着地した際に相手選手の足を踏んでしまう。苦痛の表情を浮かべながらプレーを続行するも、11-9からチームはタイムアウト。一度はプレーを再開したが、12-9としたところで再度タイムアウトを要求し、和野はそこでベンチに下がることになった。のちに重度のねんざと診断されたように、もはやプレーは不可能だった。

 

 そうは言っても、大衡中の登録メンバーは7名である。セッターを欠いたいま、残った6名で戦わなければならない。リベロチェンジはおろか、もう誰一人として交代すらできない。

「セッターが抜けるか…、と。ここから一人でも欠けたら、全部が変わってしまうので、誰もケガできないなと思いました。それに勝てる可能性は十分にあると感じていたので、次のプレー、次のセットをどうするかを考えました」(髙橋キャプテン)

 

 チームとしてはこれまでも日頃の練習や練習試合でもメンバーが欠けるシチュエーションはあり、そこではローテーションをくふうするなど試行錯誤した経験も。それが、全国の舞台で生かされることになった。「セッターがいないのは初めて」(鈴木)だったが。

 

 

小学生時代の大半と中学でも2年生時までセッターを務めていた①髙橋キャプテンがトスを上げることに

 

 

【次ページ】予選グループ戦敗退。「どんまい!!」の言葉は実に温かく

負傷した②和野はベンチで悔しさをこらえながら、仲間の健闘を祈った

 

 

予選グループ戦敗退。「どんまい!!」の言葉は実に温かく

 

 その後は髙橋キャプテンがトスを上げ、リベロの鈴木も前衛を含めてフル稼働。だが藤枝リアンに0-2(11-25,22-25)、大東中(大分)との敗者復活戦でも0-2(11-25,14-25)と敗れ、予選グループ戦敗退という結果で福井全中を終えることになった。

 

「力を出せない、出しきれない状態で負けましたから」という髙橋キャプテンの言葉どおり、本来の力を発揮できなかった悔しさは残って当然だろう。けれども、その現実を前にしながら大衡中の面々は実にすがすがしかった。「ケガはしようがないですから」と髙橋キャプテンは言い、負傷した和野自身も「ケガをしてしまったことに対する悔しさはありますが、そこはスポーツなのでしかたがないとも思います」と口にする。

 

「ケガした直度は何も考えられませんでした。ベンチで手当てを受けてからは『戻りたい』『やれるならば最後までプレーしたい』という気持ちでしたし、敗者復活戦では『元気を分けたい!!』と思いながら、みんながプレーする姿を見ていました」と和野。中学からバレーボールを始め、「仲間が打ちやすいように」と懸命にトスを上げた司令塔に、チームメートは大会を終えて「どんまい」と声をかけていた。響きだけで言えば淡白に感じるが、落胆しても当然というべき状況の中で、彼らが発するその四文字は実に温かかった。

 

予選グループ戦で敗退となったものの、すがすがしい表情を浮かべた大衡中の面々

 

 

「バレーボールを存分に楽しみながら、勝つ喜びを得てほしい」と千葉監督

 

 大会を終えて、千葉監督は部員たちへ健闘をたたえる言葉をかけた。「後悔だけはしてほしくなかった」という思いからだった。

「ほんとうによくやったと思います。ベストなかたちではなかったかもしれませんが、自分たちの持っているものを全国大会では披露できたと思うので。そこは満足して、納得して、終えてもらいたかったですし、そう伝えました。

 私が素人ということもありますが、勝つためにガツガツやるのではなく、バレーボールを存分に楽しみながら勝つ喜びを得てほしい、といつも話しているんです。その点、彼らはほんとうに練習でも試合でも、勝っても負けても楽しくやっている子たちでしたね。それがよさであり、こうした全国大会出場という結果につながったのではないでしょうか」

 

 部員たちに月並みな質問を投げかける。このチームのよさはどこにあると思う? すると、誰もが「仲のよさ」と答えた。その中の一人、和野が松葉杖をつきながら言う。

「一人がいなくなっても、その穴を埋められる。それが、このチームの強さなんだな、と感じました」

 

 部員7名で臨んだ、最初で最後の全国大会。彼らだけに、彼らだからこそ備わった強さが、そこには確かにあった。

 

≪完≫

 

健闘をたたえる千葉監督。大衡中3年生たちの夏が終わった

 

(文・写真/坂口功将)

 

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