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東亜学園高が春高のセンターコートに帰ってくる。ミラクルか、それとも? 鎮西高撃破の準々決勝で見せた確かな力

東亜学園(東京③)【写真:山田壮司】

 7大会ぶりに準決勝進出を決めた東亜学園(東京③)

 

 

 バレーボールの「春高」こと「第77回全日本高等学校選手権大会」は 11日(土)から準決勝に突入し、会場は一面だけのコートが張られた、いわゆるセンターコート仕様になる。高校生の多くが憧れを抱くその舞台、そこに立つチームの一つが男子の東亜学園高(東京)だ。

 

準々決勝は各セット終盤で壮絶な競り合いを演じながら結果としてストレート勝ち

 

「春高」「センターコート」そして「ミラクル」。

 その3つの単語がそろうと浮かび上がってくるのは、真紅のユニフォーム。やはり東亜学園高には、春高の舞台で会場中の視線を浴びながらつかみとる、「奇跡的だ」と言いたくなるような勝ち方が似合う。17日の準々決勝を見て、そう思いを馳せた人もいるはずだ。

 

 鎮西高(熊本)を相手に、第1セットは24-25からの3連続得点で逆転に成功して先取すると、続く第2セットは序盤で最大5点ビハインドとなるも終盤に追いついてみせる。24-22と先にマッチポイントに到達したが、高い決定力を発揮した鎮西高の2枚エースに得点を許しジュースへ。25-26と一度は逆転されるも、最終的に30-28で競り合いを制して、見事に準決勝進出を果たしたのである。

 

 勝利に歓喜し、中には涙を流す部員の姿も。東亜学園高の佐藤俊博監督は目尻を下げた。

「集中力がありましたね。以前だったら少しミスが続いたり、相手にどうしようもないほど強いスパイクをかちこまれると、意気消沈するケースが見られたんです。ですが、今回はしっかりとレシーブを返して、相手と駆け引きをして、勝負を楽しんでいる印象でした。試合が終わって選手たちも『楽しかった!!』と口にしていましたしね。パスが返れば、全国の強豪を相手にしてもある程度は勝負できると踏んでいました。それができたので“花丸”です」

 

 

和田太一(東亜学園)

 

 

「今日はミラクル東亜を出せたと思いました」と現役部員たちの声

 

 東京の名門として高校バレー史にその名を刻んできた東亜学園高が、かつて代名詞に「ミラクル東亜」を授かったのが、この春高の舞台だった。1983年、当時は3月に開催されていた「春の高校バレー」こと全国高等学校選抜優勝大会の第14回大会で初優勝を飾る。その勝ちぶりがあまりにも奇跡的だったことから、そう評されるようになった。

 

 とはいえ、現役部員たちが当時を知るはずもなく、セッターの和田太一は「自分たちはそれほど意識していないのですが、いろんな方々から言われて、『あ、ミラクル東亜なんだ』と思います」と素直に告白する。ただ、その単語とDNAは彼らにも刻まれていた。開智高(和歌山)との3回戦で逆転勝利を、準々決勝で劇的な勝ち方を見せた7日のダブルヘッダーを終えて、和田はこう表現した。

「今日はミラクル東亜を出せた、と。開智戦は自分たちの力を発揮できたと感じていますが、鎮西に勝ってセンターコートに行った、それはミラクルだと思います」

 

 母校で指揮を執る佐藤監督もまた、準々決勝後に取材陣から「令和でもミラクルを?」と投げかけられると、「ミラクルですよねぇ」と開口一番。続けて「今日できましたから…、次はもう(ミラクルでなくても)いいんですけどね」と冗談まじりにほほえんだ。

 

 

佐藤俊博監督(東亜学園)

 

 

偶然にも準々決勝は“センターコート”に。「東亜学園のムードにできました」

 

 佐藤監督が言うに「スタート地点では全国大会で勝負できる力がなかった」部員たちが、なぜ7大会ぶりの準決勝進出を決めることができたのか。それは、準々決勝が“センターコートだった”ことも一つは要因にあるだろう。

 

 この日、準々決勝が行われたCコートは接戦が多かったため、東亜学園高が鎮西高と対戦するころには、周りのコートではほぼすべての試合が終了していた。

「部員たちへ試合前に『角度は違うけれど、センターコートだぞ』と伝えたら、部員たちはニヤニヤしていましたね。あそこでスイッチが入ったと思います」(佐藤監督)

 加えて、大勢の応援が駆けつけたこともチームを後押しした。同時に行われる試合がなかったため、対戦相手の応援団を除くと、声援はダイレクトに届き、それも会場中に響き渡る。「リードされても、みんなが気持ちを前向きにしてプレーしていました。それはやっぱり応援の力があって、勇気をもらえたからです」とは菊池怜太キャプテンの言葉だ。

 

 サウスポーエースの山田慶之輔も「周りのコートで試合があると、どうしても集中できないので。鎮西戦だけだぞ、と集中して、東亜学園のムードにできました」と振り返ったように、メイン会場の4分の1面、それでも唯一ゲームが行われている“センターコート”を彼らは存分に満喫し、勝利につなげたのである。

 

 

東福岡(福岡)

 

 

東福岡高(福岡)との準決勝は11日の第4試合(1615分試合開始予定)

 

 おもしろいのは、佐藤監督自身が準々決勝で、拮抗した試合展開にも関わらず点数を見ていなかったこと。その理由について「点数を気にすると結果に意識が傾いてしまうので、そうなれば選手たちの集中度合いやプレーの質が下がるのは明確でした。ですから、目の前の1本と向き合うように促して、『次は何をするの?』『レシーブだよ』と常に声をかけながら試合を戦っていました」と話す。これにはセッターの和田も「最後は気持ちでプレーしていましたし、『アタッカーに打たせる』『いいトスを上げる』だけを考えていました」と語っていたことから、準々決勝でいかに選手たちが集中力を切らさずにプレーしていたかがうかがえる。もっともそれが、「楽しみすぎました」(山田)という言葉が出てくるほどの好プレーを続々と生み出した。

 

 きたる11日の準決勝でも、彼らは一つのボール、一つのプレーにフォーカスし、何より楽しみながらセンターコートを駆け回るに違いない。そこでは7日のダブルヘッダーで披露したようなミラクルの再現だってありえるかも?

 和田が口にした「開智戦は実力、鎮西戦はミラクル」という表現を、菊池キャプテンに投げかけると満面の笑みを浮かべてきっぱり。

「いやぁ、2試合とも実力だと思います」

 

 春高の舞台で、センターコートの切符をつかみとった。その実力は決して、ミラクルではない。

 

(文/坂口功将 写真/中川和泉、山田壮司)

 

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