中学校と地域クラブが手を取り合う。清風中男子が昨年末に強化練習会を実施「これが今後は日常風景になるのでは」
- クラブ
- 2025.01.17
バレーボールに限った話ではないが、中学世代では部活動の地域移行が進んでいる。昨年の全国中学校選手権大会(以下、全中)では男子4チーム、女子6チームの地域クラブが出場を果たすなど、その動きは本格化している。そんななか昨年末に見られた、一つの光景があった。
強化練習会の最終日に参加した5チーム全員による集合写真
全国各地から実績ある中学校や地域クラブが一堂に介した
昨年12月29日、住友電工体育館(大阪)では中学生たちがボールをつないでいた。その前日には、中学生世代のその年を締めくくる大会でもある「JOCジュニアオリンピックカップ全国都道府県対抗中学大会」が閉幕したばかり。コート上の顔ぶれを見ると、なかにはJOC杯に出場していた選手の姿もある。
そこで行われていたのは、清風中(大阪)が主催する強化練習会だった。この日は清風中を始め札幌大谷中(北海道)、大東中(大分)という中学校に加えて、藤枝リアン(静岡)やPROGRESS倉敷(岡山)といった地域クラブを含めた計5チームがそろっていた。
実際、中学校とクラブチームでは大会においてネットの高さや使用するボールの大きさが異なるため、日頃からこうした機会は決して多くない。ましてやお互いに“距離”や“垣根”を感じているとは、ここ数年、現場のいたるところで聞かれた話でもある。もちろん、中学校やクラブチームがそれぞれ主催する大会やこうした練習会では、両者が混在するかたちでそれらを実施してきたケースだってある。
今回、双方のチームが一つの練習会にそろったわけだが、そこには清風中を指導する伊藤晋治監督の意向があった。というのも、伊藤監督自身はどんなチーム、どんな相手であっても日頃から接点を持ち、練習試合を重ねることで一緒に強くなっていきたいという考えを持っている。清風中は今年度の全中における優勝候補の一角に名前を連ね、新チームが始動したときから同じく優勝候補とうたわれた安田学園中(東京)とことあるごとに練習試合を実施。昨年の全中を前に「劇場作品の『ハイキュー!!』みたいな、ああいうつながりを選手たちに持ってほしいんです。いざ試合本番でネット越しに思いをぶつけあうような、ね」とその胸の内を明かしていた。
悔しくも、全中において清風中は準決勝で敗れ、結果的に優勝を果たす安田学園中との“「もう一回」がない試合”が決勝で実現することはかなわなかったが…。
清風中を指導する伊藤監督(右端)
中学校と地域クラブの“距離”や“垣根”を取っ払って、深まる交流
清風中自体も強化部として活動したのはここ数年の話で、伊藤監督も全国各地の実績ある学校にコンタクトをとっては、胸を借りるかたちで練習会や大会に参加しながら、これまで歩みを進めてきた。そのなかで地域クラブとの交流も生まれ、今回の強化練習会の実現に至ったというわけだ。
「伊藤先生がとてもオープンな人柄で、交流しながら、お互いに勉強していきましょう、というスタンスですから。私たちとしてもうれしかったです。力のあるチームを相手だと、一緒に練習するだけで選手たちにとって学びになりますので」と話すのは藤枝リアンの鈴木拓史監督。自身は静岡県内の中学校の教員であり、以前は学校のバレーボール部を指導していたことから、藤枝リアンを発足してからも県内や近隣県の中学校と練習する機会はあった。
藤枝リアン自体は全国ヤングクラブ大会への出場歴を持ち、地域クラブの参加初年度となった令和5年度の全中でベスト16の成績を収めている。「あの大会で安田学園中を相手に拾いまくって第1セットを先取したことで、中学校界隈でもチームの名前を知ってもらえたと感じています」と鈴木監督。以降は地域クラブでありながら、中学校が主体となる練習会に声がかかる機会も増えたそうだ。
強豪クラブがひしめく静岡県で長らく活動する藤枝リアン(コート左)
ルールが違うなか「段階を踏んでスキルアップすることが大事だと実感した」という声も
試合本番ではルールが異なるため、実戦練習の際には時期やタイミング、双方の意向に応じて、どちらかのルールを採用することになる。今回の清風中による強化練習会はネットの高さが230㎝、ボールは4号球という“中学校仕様”で行われた。ふだんの「243㎝、5号球」とは違うものの、そんなかにもメリットがあると話すのはPROGRESS倉敷を指導する倉地太輔監督だ。
「230㎝のネットですと、ブロックの腕がネットの上から出てくるのでアタッカーはくふうしてボールを打つことが求められます。一方で、ブロッカーもブロックのかたちを学べます。243㎝だとまずはジャンプすることに重きを置かざるをえないので。ネットの高さしかり、段階を踏んでスキルアップしていくことが大事だとあらためて実感しました」
PROGRESS倉敷は年に2度、全国各地から実績ある有力クラブを集めた「PROGRERSS CUP」を主催し、年々レベルが上がるその大会は各チームにとって強化の指針となっている。中学校との交流がゼロではないとはいえ、「こうして情熱を持って競技に取り組んでいる中学校のチームとゲームをすることも大切な機会ですね」と倉地監督は受け止めていた。
強化練習会は29日が最終日だったが、26日から住友電工体育館のほか堀江中学校(大阪)でも実施され、そこには近畿圏だけでなく、中国ブロックや東海ブロックの中学校やクラブチームも参加していた。「これが今後の日常風景になっていくのではないでしょうか」と伊藤監督が語ったように、この先、部活動の地域以降が進むなかでこうした動きはさらに加速していくと予想される。
ボールをつなぐ仲間がいて、ネットをはさんで戦う相手がいて、初めてバレーボールはできる。そこに、中学校も地域クラブも関係ない。
集合写真を撮影する際、チームをシャッフルしてアイスブレイク。選手どうしの交流が生まれる機会に
(文・写真/坂口功将)
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【ギャラリー】清風中が実施した強化練習会の模様。令和6年度全国中学生選抜メンバーの姿も