親子対決は「どっちが勝っても喜べない」!? 元日本代表の近藤茂さんが明かす、全中選抜入りの息子と戦った“最後の1年”の心境
- 中学生
- 2025.03.15
今年2月にイタリアで行われたユース世代の国際大会「Nations Winter Cup」で令和6年度全国中学生選抜男子(以下、全中選抜)が優勝を飾った。そのチームで司令塔を務め、大会ベストセッターに選ばれたのが近藤翔(こんどう・かける/浜松修学舎中〔静岡〕3年)。父は現役試合に東レアローズ(当時)で活躍し、男子日本代表入りも果たしたセッターの近藤茂(しげる)さんだ。
左が父の近藤茂さんで右が息子の翔。昨夏の全日本中学校選手権大会にて
現在は静岡県の中学生クラブチーム「IZULU U14クラブ」を指導する近藤茂さん
フィクションの世界において、“親子対決”は一つのジャンルとして確立されている。映画作品ではSFの名作『スターウォーズ』のルーク・スカイウォーカーとダースベーダー、漫画作品では『巨人の星』の星飛雄馬と星一徹、『グラップラー刃牙』の範馬刃牙と範馬勇次郎…、といったところか。血のつながったものどうしがさまざまな思いをめぐらせながら戦う、そのドラマは胸を熱くさせる。
そして、それはノンフィクションでもありえるもの。この令和6年度の静岡県中学バレーボール界では、近藤家による親子対決が繰り広げられた。
父の近藤茂さんはVリーグの東レでプレーし、現役引退後は社業のかたわら、現在は静岡県を拠点に活動する中学生世代のチーム「IZULU U14クラブ」の指導にあたっている。その息子の翔は小学生時代こそ「IZULUクラブ」で過ごしたが、中学は浜松修学舎中へ進んだ。クラブと中学校で体制は異なるものの、どちらも日本一の実績があり、練習試合では何度も顔を合わせてきた。そうして昨年7月の第77回静岡県中学校総合体育大会が最後の真剣勝負の場となった。
中学生世代のクラブチームでは有力チームがひしめく静岡県で、IZULU U14をその一角に押し上げている茂さん
全国大会へと通じる県大会の準々決勝で対決
この試合は、お互いにとって負けられないものだった。なんといっても県大会の準々決勝。次のステップである東海大会への出場権が与えられるのは上位3チームに限られるため、ここをクリアしないことには全国大会(全日本中学校選手権大会)への道が閉ざされるのだ。その結果は…、浜松修学舎中が2-1(25-18,19-25,25-17)で勝利した。
「周りはけっこう注目してくれていたみたいで、『息子さんとの対戦はどうなの?』と言われましたね。ですが、そこは勝負事。うち(IZULU U14クラブ)はうちで勝つし、と」
そう息巻いていた茂さんだが、息子に敗れて帰路につくことに。コートを離れれば、IZULU U14クラブの監督ではなく、近藤家の父親だ。そこでは…
「息子には『終わったね。よかったね』って(笑) 試合前から複雑な感情でした。どういう結果であれ喜べないし、悔しがれないじゃないですか。自分のチームが勝っても、それはつまり息子が負けているわけですから、なかなか『うれしい!!』とは思えないもの。ただ、自分のチームが負けたほうが悔しいな、とは感じました」
それが、父親そしてIZULU U14クラブ監督でもある“近藤茂”の素直な胸の内だった。
息子の翔は昨年末のJOCジュニアオリンピックカップ全国都道府県対抗中学大会の静岡県選抜の活動までアタッカーとしてプレーしており、今年の全中選抜からこの先はセッターで勝負していく。日本代表だった父親に「負けたくない」と常々口にし、ここからは同じセッターとして、自分自身との戦いに身を投じていくというわけ。「もう対戦することはありませんから。息子が高校に進んでからは純粋に応援します」と茂さんはほほえんだ。
大会を通してトスを上げるのは自身にとって初めてのことだったが、全中選抜では堂々と司令塔を務めた翔
近藤家とまるで同じ境遇の対決が今季のイタリア・セリエAでも
そんな近藤家と、「親子対決」「セッター」のキーワードで共通するエピソードを最後に紹介したい。
こちらの舞台はイタリア・セリエA。時同じく2024/25シーズンでは、注目の親子対決が実現していた。父のダンテ・ボニンファンテはターラントの監督を務め、現役時代は男子イタリア代表のセッターであり2012年ロンドンオリンピック銅メダリストの肩書きを持つ。その息子、マッティアは現在20歳の若さながら、ルーベで正セッターを担っている。
2人にとって初となる、セリエAでの直接対決は昨年の現地11月24日、レギュラーシーズン前半第9節。結果はセットカウント3-2の激闘の末、父に軍配が上がった。通算7度のリーグ優勝を誇る名門ルーベを下したとあって、前年度の最終成績11位(12チーム中)のターラントからすれば、これは金星にほかならなかったが、ダンテ監督は試合後にこう語った。
「息子との対戦についてですか? 試合で勝つことが大事でしたから、とてもうれしいです。と同時に、負けた彼の気持ちもわかるので、そのつらさを思うとかわいそうだとも。ですが、スポーツの世界ではお互いにリスペクトし合っていますよ」
どうやら現実世界の親子対決は、父親にとって複雑な心持ちにならざるをえないもののようだ。
セリエAで親子対決を演じた(左から)父のダンテ監督と息子のマッティア(Photo/legavolley.it)
(文・写真/坂口功将)
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