今年2月にイタリアへの海外遠征を実施した令和6年度全国中学生選抜女子(以下、全中選抜)。そのメンバーの一人、渡邉梨央(大阪国際中〔大阪〕3年)は遠征最終日、晴れ晴れとした表情で帰国の路に着いた。
2年生時に全中選抜入り。大阪国際中では主軸を担った
179㎝の身長を備え、その高さを生かしたアタックが持ち味の渡邉。1年前、当時は2年生ながら全中選抜の海外遠征メンバー入りを果たした。その経験を踏まえ、「それまでは全中選抜も『入れたらな』くらいで少しふわふわしてとらえていましたが、『絶対にここに立ちたい。このユニフォームをまた着て、きちんと戦いたい』という思いが強くなりました」と振り返る。
迎えた中学3年目、大阪国際中では「監督が自分の将来を思ってくださって」(渡邉)、ライトからレフトに転向する。さらに、チームは直近2年間、夏の全日本中学校選手権大会で2022年は準優勝、23年はベスト4という成績を残しており、「日本一に届かなかった先輩たちの思いも背負い、自分が中心になって日本一をとりたい」と願望は強くなるばかりだった。
だが、夏の選手権大会では府大会の準々決勝で金蘭会中に敗れる結果に終わり、チームとしての戦いはここで終幕した。
「自分が決めることができなかった。自分って弱いな、と感じました」
ここから渡邉は、自身の弱さと向き合っていくことになる。
競技に取り組む姿勢も見直して臨んだJOC杯大阪北選抜の活動
目指した日本一も道半ば、それも、思っていたよりも相当に早い場所で夢破れた。渡邉自身はそこから年末のJOCジュニアオリンピックカップ第38回全国都道府県対抗中学大会(以下、JOC杯)の大阪北選抜の活動へ本格的に臨むにあたって、「ミスが出たときに何がダメだったかをきちんと自分の中で振り返ることを。また調子が上がらないときでも、落ち込むのではなく、どうすればいいかを考えることを」意識して取り組んだ。
府大会では自身のミスや得点を決めきれない現実を前に、折れてしまった。その課題を克服するために、心の持ちようと併せて競技に対する姿勢も見直している。
「試合や日本代表のバレーを見たりして、勉強して、ときには質問しにいったり。それまでもわからない部分は先輩に聞いていましたが、まだまだ足りていなかったですし、私自身も『まぁ、でもいけるかな』と思っていた部分は正直ありました。それが府大会で結果として表れたと思うんです。
教えてもらったとしても、それが身につくまで取り組むことが私には足りていなかった。もう一度、意識を高めて府選抜では活動していました」
その大阪北選抜には渡邉の大阪国際中や近年力をつけている東海大付仰星高中等部、そして夏の全国大会を制した金蘭会中の面々がそろっていたが、そのなかでも渡邉はチーム最長身。さらに大阪北選抜はチームとして大会連覇をにらんでおり、そのこともまた渡邉にとっては自チームで抱いていた思いと重なるようにモチベーションとなった。
「JOC杯では1年前に先輩たちが日本一をとっていたので、自分も優勝したいと。そこでは自分が得点を決めることでチームを助ける、そんな選手になりたいと考えていました」
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レギュラーとしてプレーすることはかなわず。涙に暮れたJOC杯
だが、11月に入ってすぐの合宿中に左足の太ももに違和感を覚えた。
「変やな、と感じていたら、次の日に痛くなったんです。結果的に肉離れで、そこからチームを離れることになりました」
11月中旬には選抜チームへ復帰することができた。ただ、大会本番を1ヵ月後に控えたタイミング。自身の離脱期間はその日数以上に渡邉にとって、それにチームにとっても響くものだった。
「代わりに入ってくれていた選手が頑張っていて、チームもできあがりつつあった。そこに自分だけが遅れて戻って、私はそのまま大会本番を迎えることになりました」
いざJOC杯本番で大阪北選抜は大会最終日へ進出を決めるも、準決勝で東京都選抜に敗れる結果に終わる。そのなかで渡邉は、大半の時間をアップゾーンで過ごしていた。大会を終えて、涙をこらえることができない。
「監督も最後は『守りができるライトがいい』と心に決められて、その点に関して私の代わりに出た選手のほうがたけていました。自分はレシーブが得意ではなくて、いいときはいいけれど、安定感や胸を張れるほどではなかったので…」
思いを強くして過ごした中学3年目。渡邉は自分の願ったように全国大会に立つことはできなかった。それも1年で二度、だ。
リベロに抜擢された海外遠征で得た学びと、この先のビジョン
今年の全中選抜、遠征先のイタリア現地で参加したユース世代の国際大会「Nations Winter Cup」に渡邉の姿があった。ユニフォームはチームの中でも色が違う。そう、リベロとしてコートに立っていた。
将来性をかんがみて、ポジションを固定せずにあらゆる可能性にトライするのは全中選抜のねらいとしてある。その中でも大会前の親善試合からリベロに抜擢されたわけだが、これには渡邉も「レシーブがとても苦手、って自分でも言っていたでしょう? なので、ホンマに決勝までリベロをやるとは思っていませんでした」とおどけるように笑う。けれども、そこでは技術面だけでなく、たくさんの学びを得ることができた。
「苦手でしたけれど、ブロックの基準が合っていると打球の強弱の分別ができますし、そうやって連携をとりながらみんなと話していくうちに少しずつですが上げられるボールも増えてきました。ブロックとレシーブの関係性を試合中でも修正していくことはやっていて楽しかったです。
それに、いつもは自分が打って決める側だったので。逆にリベロのときは周りを少しでも楽にしてあげて、自分が支えてあげたいなと。チームが優勝するなかで、それができた気がしてうれしかったです」
自分の課題にとことん直面した1年間はこうして終わった。この春からは高校という次のステージが幕を開ける。
「高校はやはりレシーブができないとダメなので。海外でやらせてもらった経験を生かします。レギュラーに入るとか関係なく、自分がコートに立ったときに力が出せるように、少しでもチームに…。うん、やっぱりレシーブ面でも貢献できるようにやっていきたいです」
そう話す渡邉の表情からは、自分への期待と新しく始まるチャレンジへの高揚感があふれていた。
(文・写真/坂口功将)
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