セッターとして星城高へ進学も最後の春高はマネジャーで。伊藤歩樹の決断と貫いた信念「コートに立ちたい、けれど勝たせたい思いが強かった」
- 高校生
- 2025.03.21
ベンチに戻ってきた選手たちへ声をかける
マネジャーに転向した理由「自分が陰でチームを支えなければ」
力不足を痛感したのは、ほかでもない自分自身だ。そこからセッターとしてレベルアップに励む選択肢だってありえただろう。けれども、伊藤が選んだのはスタッフへの転身だった。
「自分たちはセッターを育てていくことが、チームづくりの軸にあります。このチームにはユニフォームを着ていない選手も含めて、セッターが5人いて、レベルの高いメンバーがそろっている。自分以外にもチャレンジできる選手がいましたから。
そのメンバーを竹内裕幸監督がさまざまな場面で起用していくことで、『これだ!!』というものをぶつけるのが最後の春高です。僕自身もプレーヤーとしてコートに立ちたい思いはありましたが、その気持ちはみんな一緒。一人一人が『試合に出たい』と思っていても、同時に、選手を支える役割を持った誰かが必要です。そういう立場になれる人間がチームにはいなかった。だったら、自分がチームを陰で支えなければと考えて、マネジャーになることに決めたんです」
伊藤自身は2年生時に春高出場メンバー入りを果たしていた。ただ、そのときはコートに立つことはかなわず。
「出る一歩手前までいったからこそ、3年目に『もう一度立ちたい』思いはありました」
2年生エースの柏﨑(コート奥)を擁して春高の舞台に挑んだ星城高
最後の春高ではベンチから懸命にチームを後押しした
そうして再び、高校生活最後の春高の舞台へ。そこではユニフォームではなくチームジャージを着て、胸には「M」のワッペンをつけてベンチに座っていた。
チームは高岡一高(富山)との1回戦で大量リードをひっくり返す「奇跡のような」(伊藤)勝ち方から、昇陽高(大阪)との2回戦を制すると、3回戦では優勝候補の一角である東福岡高(福岡)と対戦する。
「スタッフに変わったとしても、やっぱりこの舞台を楽しみたかったですし、最終日のセンターコートまで行きたかった。そこはもう…、何て言うんでしょう、自分がトスを上げたい気持ちもあったけれど、どちらといえば『このチームを勝たせたい』気持ちが強かったです」
巧みなメンバーチェンジを繰り出し、的を絞らせない攻撃を展開してくる東福岡高を相手に、伊藤は試合中も欠かさずメモを取り、隣の中根コーチと言葉を交わし、コートの中にいる選手やベンチに戻ってきた選手に声をかける。
「選手ではないから、ではなく、このチームに入ったかぎりは、このチームが好きなので。何か力になれることはないか、と考えて行動してきました」
マネジャーになってから常に抱いてきた思いを、目の前の一瞬にぶつけていた。
たとえマネジャーとしてベンチに座っていたとしても、気持ちはコートに立つメンバーと一緒だった
「星城高を選んで正解でした」とその表情は清々しく
結果、東福岡高に敗れて星城高の戦いは終わり、そして伊藤のバレーボール人生も幕を閉じた。春高3回戦が実施された今年1月7日、その胸の中を聞いてみる。
「星城高に入って、自分自身はプロのバレーボール選手を目指したかった。そこから3年間いろんなことがあって、最終的にはマネジャーになりました。大学でも続けないので、これで僕の競技人生は終わりです。
この高校を選んだからこそここまで来られたと思いますし、選んでいなければひょっとしたらもっと前にバレーボールを終えていたかもしれない。なので、星城高を選んで正解だったと思います。楽しい3年間でした!!」
本人いわく、将来は救命資格を持った消防士を目指して、大学では救急医学を学ぶ。「自分は頭が悪いので、大丈夫かなぁ」と、4年前とまったく同じ言葉をこぼす。もしかしたら、また違う道が拓けて、それを選択するかもしれない。ただ、どんな道であっても。
人のために頑張る――。バレーボールを通して得た学びは、伊藤の中で芯としてあり続けるに違いない。
東福岡高に敗れ、整列では深々とおじぎをしたのちに目を赤くした
(文・写真/坂口功将)
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