三宅綜大に芽生えた向上心 「関田さんがA代表で正セッターをしている以上、身長のせいにしたくない」【駿台学園高全国三冠メンバー、次の舞台へ】
- 大学生
- 2025.04.11
1月の春高で3連覇&全国三冠を成し遂げた駿台学園高(東京)。最優秀選手賞に輝いた川野琢磨(早稲田大1年)をはじめ、スタメンの3年生はこの春新たな道に進んだ。身長174㎝のセッター三宅綜大(順天堂大1年)は、高校3年間でこの世代を代表するセッターの一人に成長した
三宅綜大(駿台学園高3年生時)
印象深い
国体の敗戦
三宅綜大は負けないセッターだった。駿台学園高2年生時にレギュラーをつかみ、インターハイでは失セット0で優勝。同年の春高で連覇に導くと、3年生時は目標どおり、全国大会のタイトルを総なめにした。卒業式でいちばん印象的な大会を問うと、返ってきた答えはそのどれでもなかった。
「自分の中では国体の負けがいちばんですね。あの負けがあったからこそ、三冠を達成することができたと思うので」
一昨年の10月、東京都選抜として臨んだ国体。準々決勝の相手は高川学園高単独チームの山口県だった。大会直前の練習試合では勝利していたとはいえ、互いをよく知り、自分たちと同じく堅い守りから攻撃に転じる嫌な相手。第1セットを奪ったが、そこから徐々に歯車が狂った。
「いつもだったらパス(サーブレシーブ)が入ってくるんですけど、コートに焦りがあって。1本目の質があまりよくなくて、自分も焦ってしまいました」
チームの代名詞である正確な守りが崩れると、三宅のトスワークが偏る。第2セット中盤にリードを許し、「点差を広げられたところでやばい、となってしまった」。持ち味のクイックを絡めた攻撃は鳴りを潜め、トスはレフトへ集中。ワンタッチをかけられ、逆に相手の多彩な攻撃を止められなかった。第3セットを19-25で落とすと、相手コートには優勝したかのような歓喜の輪が広がった。
「駿台(学園高)はレフトが動いて打って、クイックを生かすチームなんですけど、それができなくなった。焦ってただレフトに上げることしかできなくて、もっと冷静にやらないといけないと思いました」
ひざに手を当て、涙を流した。全国三冠の目標は道半ばで終わった。
山口県に競り負けた2年生時の国体
3年生時には世代を代表する司令塔となったが、そもそも1年生時の三宅はBチームの選手だった。同級生で同じポジションにはJOC杯で東京都選抜を優勝に導き、ベストセッター賞に選ばれた大坪泰介がいる。オープンバレーが基本の駿台学園中(東京)からスタイルも変わり、入学前には「3年間で出場機会はないのかな」と覚悟していた。
だが、まだ自身がレギュラーをつかむとは想像できなかった1年生時。梅川大介監督から口酸っぱく言われたのが「ブロックを見ないセッターは使えない」という言葉。その意味をプレーで示してくれたのは、2学年上の吉田竜也(明治大3年)だった。身長170㎝と小柄ながら、春高ではチームを7年ぶりの頂点に。吉田の後を継いで新チームでレギュラーをつかんだ三宅は、その姿を道標にした。
「自分が2年生になる全国私学大会(3月に行われる全国私立高等学校選手権大会)のときに、先生(梅川監督)から『去年と違うのはセッターだ』とずっと言われていたので。そこからインターハイぐらいまでは何回も竜也さんの映像を見ました」
最適なトスを上げるべく、練習からサーブレシーブが返る前には必ず相手コートに視線を移した。ミドルブロッカーはレフト側に寄っているのか、それともライト側にいるのか。「調子がいいときはサイドの選手も見える」という視野の広さは、トスワークを変えた。
「最初は全然できなかったです(笑) でも、全国私学が終わってからの期間はずっと試合に出ていたので、徐々にできるようになっていったと思います」
相手も苦笑いの
好セッターに成長
吉田からの学びを再び思い出させてくれたのが、2年前の国体の敗戦だった。その後はレギュラーを奪われた時期もあったが、何度も動画を見返し、2年生時の春高では定位置を奪還。司令塔として春高連覇に導くと、3年生時には絶対的な存在としてコートを支配した。
「聖成さん(亀岡〔筑波大2年〕)たちの代ではトスを打ってもらっていた感覚でしたが、そこからメンバーがガラッと変わって。敷浪(孝一)や(植草)光稀といったそれまでメンバーに絡んでいなかった子たちが春高で活躍できたのは、1年間自分がトス回しをやってきた部分も出たのかなと思います」
ゲームキャプテンとしても、チームに安心感をもたらした
2年生時にはなかったバックアタックを絡めた攻撃に着手すると、対戦相手はお手上げ状態になった。特に白旗を上げたのが相手のミドルブロッカー陣。トスが返る前の一べつで狙いを見透され、ブロックを振られる。苦笑いを浮かべながら「何を考えているかわからない」とセッターとしては最高の賛辞を送る者も多かった。
昨年の国スポ決勝では、高川学園高単独チームの山口県を全セット15点以下に抑える完璧な内容で下すと、春高でも圧巻のトスワークで頂点へ。特に準決勝の市立尼崎高(兵庫)戦ではスパイカー陣を輝かせ、チームのアタック決定率は63.9%をマーク。特筆すべきはミドルブロッカー高澤大馳のアタックでの12得点で、これはアウトサイドヒッター櫻井信人に次ぐ得点だった。
経験を積み
変わったビジョン
身長は174㎝。バレーボール選手として決して大きくない体は、これまでウイークポイントになると感じていた。「自分はここ(高校バレー)で止まる選手。未来がないんで」。自虐気味にそう言ったこともある。今年の春高前に語った卒業後の目標も、現実的なビジョンだった。
「中学3年ぐらいから指導者になりたくて。大学で教員免許を取るので、セカンドキャリアは指導者になりたいと考えています。将来プレーヤーとしてやることは、まだあまり考えていないですね」
だが、失セット0で偉業に導いた春高、そして同大会後にはU20日本代表候補合宿に参加したことで、少しずつ心境に変化が生まれてきた。日本代表でトスを上げる関田誠大(STINGS愛知)は身長175㎝。三宅とそこまで背丈が変わらない選手が、世界のトップと渡り合っている。
「南部(正司日本バレーボール協会ハイパフォーマンス本部本部長)さんからも、『オリンピックで優勝したフランスのセカンドセッターも小さい。セッターは身長だけではないから頑張ってね』と言われて。自分にしかない部分も絶対にあると思うので、そこを伸ばしていきたいです。
関田さんが今、A代表で正セッターをしている以上、自分も身長のせいにしたくない。小さいと言われても、技術で勝てるようなセッターに成長していけたらと思います」
3月に行われた大学バレー新人強化合宿「Sprout Camp」で、トスを上げる三宅
今は「世界を相手に試合をしているのは想像できない」と笑うが、可能性を大きく広げた高校時代を考えると、決して不可能ではない。順天堂大でも、視界をさらに広げる4年間が待っている。
みやけ・そうだい
順天堂大1年/身長174㎝/最高到達点319㎝/駿台学園中→駿台学園高(ともに東京)/セッター
文/田中風太(編集部)
写真/山岡邦彦(NBP)、魚住貴弘、編集部
試合日程
2025年度春季関東大学バレーボールリーグ戦
第1日10時〜@小田原アリーナ
Cコート第3試合 順天堂大—専修大
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