春高直前 東山(京都)の今年度男子インターハイを振り返る【月バレ2022年10月号プレーバック】
- 2022.12.30
今年度最後の全国大会となる第75回全日本高等学校選手権大会(春高)が、2023年1月4日(水)から東京体育館(東京都渋谷区)で開催される。
今夏、香川県で行われた四国インターハイで優勝した東山(京都)。インターハイと春高の二冠を懸けて本大会に臨む。大会を前に月刊バレーボール2022年10月号のインターハイ報道号(男子)で東山の戦いを振り返ってみよう。(月刊バレーボール2022年10月号掲載記事を再編集したもの。本文は当時の内容のまま)
------以下、月刊バレーボール2022年10月号より------
初制覇への壮絶な日々 地獄の2週間の先に
男子優勝 東山(京都)
まさかだった
近畿大会の敗戦
心から笑えるときがきた。池田幸紀キャプテンがスタンドにいる応援団へ右手を掲げた。四国の地に凱歌が鳴り響く。「カモンロッソ、カモン、カモンロッソ!」。仲間と手を取り合うと、儀式のラストは全員で目いっぱい高く跳んだ。「優勝してほっとしました。(カモンロッソは)練習はしないので、みんなの振りがバラバラでしたね。春高までに完成度を高めたいです」。池田キャプテンには笑える余裕があった。その2週間前とは違って。
目標は三冠。そう言い続け、激戦区・京都府予選を3年ぶりに突破した。優勝し、勢いをつけてインターハイへ。そう信じてやまなかった7月下旬の近畿大会で、まさかの出来事が起きる。失セット0で迎えた昇陽(大阪)との決勝。日本代表の麻野堅斗のクイックは封じられ、2年生エースの尾藤大輝は厳しいマークを打ち破れず。セッターの當麻理人は「手も足も出なかった」と打開策を見いだせなかった。ストレート負けに終わると、松永理生監督のゲキが飛んだ。
「ミーティングのときも言ったやろ! 俺が考えるんじゃないからな。あなたたちが考えないといけないことがもっとあったということや。俺から指示を待って戦っている間は日本一になれない。次、勝つための準備はスタートしていますよ」
本戦を2週間後に控え、チーム全体が不安に包まれた。池田キャプテンは言う。「喪失感は大きかったです。どうしよう、大丈夫なんかなって」。そこから「地獄」の日々が待っていた。
近畿大会で準優勝に終わり、うつむく尾藤(左/右は花村)
心身ともに追い込んだ
恐怖の「001」
松永監督が「近畿大会で負けて、必要なのはフィニッシュで打ち切る力」という意図で組み込んだのが「001(ゼロゼロワン)」というメニュー。3本連続で決めて初めて1点が入るというルールがその名の由来だ。3年生にとっては今年1月の春高前に経験した「仕上げ」の練習。だが、今回は比べのものにならないほど強度が高かった。
レフトとライトにはブロッカーが2人ずつ。そして、センターには3人のミドルブロッカーが入った。従来より2枚多い6枚の壁に加え、フロアディフェンスには松永理生監督、石井優コーチを含めた4人が待ち構える。相手コートには合わせて10人。その中でサーブレシーブを返して得点を決めた後に、台上からノーブロックでたたき込まれる強打を切り返さないといけない。3本連続で決めてようやく次のローテーションに移る。
「(尾藤)大輝ビビってるから次もどうせシャットやぞ!」「あいつ、サーブレシーブ返らんぞ!」。相手コートからは罵声が飛び、精神面も削られた。失敗すれば振り出しに戻るだけでなく、9mを3往復走のペナルティー。終わりは見えず、2時間次に進めないローテーションもあった。ミスをしても「切り替えよう」という声掛けもなくなるほど追い詰められていた。
指揮官が「壮絶でした。ここまでメンタル、体力的に追い込んだのはこの代が初めて」と語る厳しい日々に、池田キャプテンは「正直、またあるわ、って気分が乗りませんでした。地獄です。見たら引くと思いますよ」と笑って振り返る。だが、心は一つだった。「インターハイで優勝するにはこの練習しかない」。
攻撃を決めるには、唯一台上ブロックではない中央がカギ。課題だったミドルブロッカーの使用率は高まり、厚いブロックに対してサイド陣の打力も上がった。「近畿大会は(尾藤)大輝頼みのバレーになっていましたが、全員で点を取りにいくことができました。一人一人が攻める意識を持つことができたと思います」。敗戦から2週間で、チームは見違える成長を見せた。
池田キャプテンは決勝で驚異のサーブレシーブ成功率92.9%をマーク
練習の成果が結実した
決勝の逆転劇
本戦では窮地に立たされるたび、松永監督の声が飛んだ。「あれだけの修羅場をくぐり抜けてきたんだから、まだまだいける」。失セット0で勝ち上がり、迎えた決勝。東福岡の多彩な攻めに押され、第1セットは最大8点ビハインド。だが、13-19から麻野のサーブでブレイクすると、尾藤のバックアタックが次々と決まった。7連続得点で逆転。そこからは試合を支配した。同校初の快挙を、完全優勝で飾った。
「もし近畿大会で勝ってインターハイを迎えていたら、『このボールを決める』という強い思いを持てなかったかもしれません。チーム全体の意思が一つにならないでインターハイを迎えてしまい、どこかで負けていた可能性はあります。荒療治をしたことで、自信を持ってインターハイを戦うことができました」(松永監督)
「決勝は『001』のおかげで勝てたと思います。攻め続けて、最後はチームが一つになりました。近畿大会は勝ちたかったですが、負けたおかげで日本一が堅いものになりました」(池田キャプテン)
余韻に浸るのもつかの間、国体近畿ブロック大会に向け、選手たちは「001」を志願。同大会ではU18日本代表としてチームを離れた尾藤を欠くため、「そのチームで予選を通るには、きつくてもやるしかない」といばらの道を選んだ。和歌山県に敗れたものの、1年生の守谷徒輝が入り、ポジションも変更した新たなスタイルで本戦の切符をつかんだ。「先輩たちも三冠はできなかったので、簡単じゃないことはわかっています。でも、獲りにいきたいですね」。視線は国体へ向けられる。ゴールはここじゃない。
メダルを手に笑顔を見せる尾藤と花村。2年生エースコンビとしてチームを牽引
取材・文/田中風太(編集部)
写真/山岡邦彦、編集部
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以上、月刊バレーボール2022年10月号を振り返った。今年度、三冠(インターハイ、国体、春高)を目標に掲げていた東山。インターハイでは見事優勝を飾ったが、続く国体で敗れ三冠の夢は潰えた。気持ちを切り替え、目標を新たに出場する今年度最後の全国大会で彼らはどのような戦いを見せてくれるのだろうか。
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