春高ベスト16・敬愛学園高「支えてくれた方々への感謝」〜最終編〜
- 高校生
- 2021.03.09
大会ベスト16という成績
やり切ったという思いと共に残る割り切れない思い
取材させていただいたのは1月下旬。「春の高校バレー」が終わって、約半月というタイミングだ。掛け声がこだまする体育館に入ると、オレンジコートで戦った3年生たちが、新チームの練習を手伝う姿があった。
今年度最初で最後の全国大会、敬愛学園高は3回戦・東九州龍谷戦に敗れて、ベスト16で幕を閉じた。「3年生にとっては最後、白黒付けられてよかったと思います。やり切った感じはありますね。個人的には、ホッとしたという気持ちもある。けれど、モヤモヤ感もあります」、そう本音を語ってくれたのは、上原典人監督だ。センターコートを、頂点を、目指して練習を頑張ってきたのだから、悔いがないといったらウソになるだろう。とはいえ、今大会に限っては、まず無事に試合ができたことにホッとしているのも事実。監督と共にチームを指導してきた釜井涼子コーチも、「無事春高が終わってホッとしたというのが正直な気持ちです」と明かしてくれた。
緊急事態宣言が発出という情報
選手たちは不安を抱えたまま大会の開幕を迎えた
大会直前、緊急事態宣言が発出されると報道されたことが、大会の緊張感をさらに高めることになった。本当に大会はできるのか? 試合をやらせてもらえるのか? 選手たちは不安を抱えた中で大会を迎えることになる。
「入場口からして、(検温など)異様な光景でしたし、ベンチでは立ち上がってはいけない。ウォームアップゾーンにいてはいけない。声を出してはいけない。応援は拍手だけという規定もあった。そんな中でも、春高の雰囲気というのは、やはりいいものだなと思いましたね。選手たちも、同様に華々しい舞台だと感じたようです。運営側は、相当なご苦労があったはず。大会をやっていただいてありがたいというのが率直な感想です」と語った上原監督。試合前、選手たちに伝えたのは、“楽しんでやりなさい”という言葉だった。
1回戦は、坂出商とメインアリーナで対戦した。開始直後に、連続失点を許すなど、出だしは今ひとつだったものの、立て直して25-17、25-15とストレート勝ち。
続く2回戦・広島桜が丘戦は、サブアリーナで行われた。今大会は無観客で開催され、体育館に入れる人数も1チーム18名に限定された。ベンチで声を出して応援してはいけないという規定もあるから、なおさらコート上は、いつもと異なり、監督からの指示が聞こえる状態だった。「水を打ったような静けさ」(上原監督)の中での試合。広さも異なるし、距離感も変わる。そんなことが、敬愛学園高のリズムを崩したのかもしれない。試合開始から連続失点で0-7とリードされてしまった。
しかし、ここを切り抜けて25-21、25-21とストレートで退けることになる。「不思議と負けるとは思わなかった」と振り返ったのは釜井コーチだ。上原監督は、「無観客がいい方に働いたと思います。普通、あれだけ走られたら勢いに飲まれて終わる。練習試合みたいな雰囲気の中で、確認しながらプレーできたので選手たちは徐々に集中力が高まっていきましたね」と振り返っている。
勝ったことはうれしい。ただ、ゲームの序盤に関しては気になっていた。だから、次戦に向けて、「出だしで苦しむと、東龍(東九州龍谷)みたいなチームでは、より苦しくなる。相手に余裕を持たせると一気にやられちゃうよ」と選手たちに伝えた。しかし、その心配は現実のものになってしまった。
第1セット、1-6とリードを許してしまうと、ポイントは取れても、なかなかブレークはできず。25-15、25-14で敗れてしまった。
「得点はできるけれど、効果的には重ねられない。点数ほど悪くなかったけれど、結果はああなってしまった。詰めきれなかった部分もあります」と上原監督。
年末の新型コロナウイルスの状況もあり、予定していた練習試合を全てキャンセルして感染リスクを最大限考慮しながらチーム練習のみで調整をした。ゲームの展開や苦しい時に1点を取る練習が足りなかった。
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保護者はもちろん
応援してくれる方のためにも最後まで前を向いてあきらめずに戦った
<ベスト16という結果を残した3年生に点数をつけるなら?>と聞いてみた。
「3年生は、80点くらいの出来ではないですかね。100点を取ってしまったらおしまい。残りの20点というのを、残りの高校生活をどう送るのか、そして、その先で見つけてほしい。まずは、胸を張って卒業してほしいですね。今年度、キャプテンの鈴木(杏梨)は長戸路賞(高校の理事長賞)を、セッターの櫻井は千葉県知事賞をいただくことになりました。昨年もバレーボール部の生徒が長戸路賞をいただいたのですが、学校の中でも模範生となっているということ。うれしい話です」、そう上原監督は答えている。
さて、今回の春の高校バレーでの目標の一つが、後輩たちにどんな背中を見せられるか? というものだった。その点についても、上原監督は目を細めて語っている。
「自分だけの春高ではなく、保護者はもちろん、応援してくれる方のためにも、最後まで前を向いてあきらめずに戦うということができていた。普通なら悲壮感とかも見えるんでしょうけれど、そういったものがなかった。あの子たちは、(今年度)最初で最後の全国大会というのを楽しもうと決めていたので、そういう想いが表情にも出ていたんでしょうね。暗いニュースが多い中で、『楽しませてもらった』『勇気をもらった』など多くの反応をいただきましたね」。
さらに、今大会、選手たちはあることを実感したという。それは【基本の重要性】だ。
「今回は、就実が優勝しましたが、誰でもできることが正確だということを、選手たちは感じていた。ちゃんと形にならないとポイントにならない。ちょっとでも崩れたら相手は拾う。当たり前のこと、体に近いボールを正確に返すだとか、しっかり打ち切るとか、そういったことを肌身で感じていた。東龍にしてもそうですね。決定打は気にしない。それよりも、もっとちゃんと難しくないボールを正確に拾う。その精度なんですよ」(上原監督)。肌身で感じた大事なこと、それは新チームに受け継がれることになる。
新型コロナウイルスの影響で、描いていたものとは違う1年間を送ってきている3年生たちに向けて、先生からのメッセージを聞いてみた。
釜井涼子コーチ
「ありがとう。勝ってくれたことももちろんですが、12人が一人一人自分の役割を全うしてくれました。ちゃんと下級生のことも見て、やってくれていたりというところも、本当にありがとう。上原先生も自立という言葉をよく使っていますが、自分で考え動くということを実践していってください」
上原典人監督
「『めげない、ブレない、あきらめない』。『ピンチはチャンス』とよく言っていましたが、苦しい中で自分を律してやれるということが大事です。これから先、もっと苦しいこともあると思いますが、今回の経験は間違いなく活きるはずです。苦しい時に、歯を食いしばって、どれだけ前を向けるか。今回経験したことを活かして、素晴らしい女性、素晴らしい大人になってください。今回、身近な人の支えをいつも以上に感じたと思います。今度は、色々な形で恩返しをしていってほしいと思います」