ハロー!! 月バレ編集部のGUCII(グッチー)です。本来であれば代表シーズンが本格化する時期ではありますが、先行きは不透明。世界トッププレーヤーたちの姿をまた見られる日が待ち遠しいですね。ということで、今回は自分が取材させてもらってきた中で印象的だった選手を紹介。(Photo:FIVB)
それではご一緒に。月バレ!ザ・ワールド!
【GUCIIの 月バレ! ザ・ワールド】vol.7
■アメリカ男子トーマス・ジェスキー、お気に入りの日本でさらなる栄光を
アメリカで開催された2019FIVBネーションズリーグ男子ファイナルラウンド
昨年7月12日、2019F I V Bネーションズリーグ男子大会のファイナルラウンドは3チーム1組、計2グループで争われるファイナル6の最終日を迎えていた。そのうちの一つ、アメリカ、フランス、ロシアによるプールAは、前日にアメリカとロシアのセミファイナル進出がすでに決定。この日のアメリカ対ロシアの一戦は、いわば消化試合だった。
その舞台はアメリカ・シカゴの、イリノイ大学内の施設であるクレディットユニオン1アリーナ。この試合の観客数は3000人足らずで、1万人収容の施設からすれば物足りない。そもそもアメリカにおいてバレーボール自体、国内プロリーグが存在しないこともあってか、アメリカンフットボール、バスケットボール、野球、アイスホッケーの“アメリカ4大スポーツ”と比較すると、その人気は見劣りすると言わざるをえないもの。
それでもナショナルチームでいえば、男子は2016年リオデジャネイロオリンピックや2018年世界選手権で銅メダルを獲得し、女子はネーションズリーグで2018年に初代女王に輝いたのち、翌年2連覇を達成している。また、カレッジバレーボールも試合となれば1万人の観客が体育館を埋め尽くす。どんなスポーツであれ、そこに注がれる熱量と文化は確かにこの国に存在する。
そうして始まったアメリカとロシアの一戦。ロシアは主力選手を温存し、アメリカも2セットを連取したところで、3セット目からはサブメンバーを投入した。そんな中でもフル出場を果たし、観客の声援を集めたのがアメリカのアウトサイドヒッター、トーマス・ジェスキーだった。試合ではコンスタントに得点を重ね、両チーム通じて最多となる12得点をマークするなどチームをストレート勝ちに導いた。
右腕に刻まれたタトゥーと、日本への思い
その試合後、ジェスキーはスタンドへ駆け込み、観客たちと喜びをわかちあった。その中には、旧知の仲もいたのだろう。イリノイ州ヒンスデール出身の彼にとって、シカゴはふるさと。競技人生においても高校、大学を過ごしてきた地元であり、代表の一員として凱旋した喜びはひとしおだった。
誰よりも長く、スタンドでの特別な時間を味わったジェスキーがようやくミックスゾーンに姿を表したころには会場の照明も落とされていた。そうして、この日の感想を聞くと、「ロシアはいい選手がそろっているので、ビデオで対策しました。お互いに勝ち上がることは決まっていたけれど、3-0で勝つことができてうれしいです」と話してくれた。
彼を見ていて、ふと気づいたのは右腕の内側に刻まれた五輪マークのタトゥー。聞けば、2016年のリオデジャネイロオリンピック以降に彫ったものだそう。
「私はリオデジャネイロ大会でプレーしました。オリンピックはスポーツの最高峰の舞台。そこでの特別な経験の一部として、刻むことにしたのです。フィジカル、メンタル双方をこれからも磨いていきたい、またメダルを取りたい、そう思っています」
それはオリンピアンとしての証しでもあり、さらなるレベルアップへの誓いでもあった。
そんなジェスキーへのインタビューは最後、日本の話に。シカゴでの日本人記者の姿が珍しかったのか、「日本から来たのですか?」という逆質問に筆者が「イエス」と答えると、彼は目を輝かせた。
「とても気に入っている国なんです! 素晴らしい人たちばかりですし、どれもが美しい国ですよね。It’s awesome!!(最高です!!)」
ワールドカップバレー2019で来日も…、苦い結果に
それからアメリカ男子は東京2020オリンピック大陸間予選を突破し、オリンピックの切符を手にした。10月にはワールドカップバレー2019のため、来日。ロスターの中に、ジェスキーの名前があった。
だが、この大会は彼にとって苦い記憶として刻まれることになる。10月4日、大会3日目のポーランド戦。アメリカは強敵を相手に2セットを奪うことに成功したが、第3セットをジュースの末に失う。続く第4セットの途中で、ジェスキーは投入されると、攻守でバランスのとれたプレーを発揮しチームに勢いをもたらした。
そうして激しい攻防が続いたセットの終盤、24-24の場面。ネット際に落ちそうになったボールに飛びついたジェスキーは、伸ばした右腕を妙な角度で床につけてしまう。苦悶の表情からは、その痛みが尋常ではないことが見て取れ、プレー続行は不可能。すぐに会場の裏手へと下がった。
その試合はアメリカが3-1で勝利した。試合後の記者会見ではキャプテンのマイカ・クリステンソンが開口一番に、「ケガをしてしまったジェスキーに対して、賞賛の意を表したい。彼のガッツは、私たちがあるべき姿だった」とコメント。
また、ポーランド男子のフィタル・ヘイネン監督は「彼のケガがひどくないことを願っています。アメリカがとてもキレのある攻撃を繰り出したことは、彼のプレーが象徴していましたから」と気遣い、その言葉を受けたアメリカ男子のジョン・スパロー監督も「ヘイネン監督の気持ちに感謝します。ひどいケガではないように、一刻も早くまたプレーができるようになってほしい」と願った。
前向きに、夢舞台へと突き進む
こうして、やむなくチームを離脱したジェスキーだったが、その後、自身のSNS上では手術後の写真と「これからがハード。乗り越えていきますよ!」と前向きなコメントを投稿。在籍するイタリア・セリエAのヴェローナにおいては2019/20シーズンをプレーすることなく退団となったが、今では元気そうな姿がSNSで見受けられる。
ジェスキーがフォーカスする目標に変わりはないだろう。シカゴで聞いた、自身の目指すゴール。それは「日々、強い気持ちを持って過ごし、代表の一員として常に全力で、いいパフォーマンスを出すこと」だった。
“お気に入り”の日本で開催されるスポーツの祭典で、代表選手としてメダルを取りにいく。その思いは今も、右腕の五輪マークとともに彼の闘争心を掻き立てているに違いない。
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著者紹介:GUCII(グッチー/坂口功将)。2016年春入社。月バレ編集部に配属後、本誌で『WORLD VOLLEYBALL NEWSPAPER』、「月バレ.com」では『WEEKLY SERIE A』を担当。2018年は世界選手権の男女両ファイナルを取材した唯一の日本人記者という称号を獲得し、昨年はネーションズリーグ男子ファイナルラウンドの取材のため単身でシカゴへ。だが、英語が特に話せるわけではない。