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月バレ!ザ・ワールド/vol.8-キューバ男子-

 ハロー!! 月バレ編集部のGUCII(グッチー)です。2020年の代表シーズンを占う上で、2019年に起きた大きなトピックスは欠かせません。最近では日本の高校バレーボール界でも注目を集めました。ずばり今回は男子バレーボールの国際舞台を席巻する、キューバにルーツを持つ選手たちを取り上げます。(Photo:FIVB

 それではご一緒に。月バレ!ザ・ワールド!

GUCIIの 月バレ! ザ・ワールド】vol.8

■かつてのキューバ男子を彩ったレアルやレオン。2019年の鳥人たち。

 2019年10月13日。ワールドカップバレーは男子大会9日目をむかえ、メイン会場の2試合目のコート上では、ブラジルとポーランドが火花を散らしていた。

 

 この一戦は、まちがいなく大会屈指の注目を集めていた。その前年に行われた世界選手権決勝のカードであったし、この勝敗が大会の優勝を左右するといっても過言ではなかったからだ(結果はブラジルがフルセットの末に勝利)。

 

 そして何より、国際舞台にふたたび戻ってきたカリブ海の香りが、見るものの関心を集めた理由だった。

ブラジルとポーランドの一戦を終え、両雄が一瞬だけ横に並んだ

女子はオリンピック3連覇。男子も2010年世界選手権銀メダル

 

 身長2メートル超の大型アタッカーが、高く舞い上がり、強烈なスパイクを打ち込む。その姿を披露したのがブラジルのイオアンディ・レアルであり、ポーランドのウィルフレド・レオン。かつてはキューバ代表としてプレーしていた2人である。

 

 キューバ代表といえば、その抜群の身体能力を生かしたプレーから“鳥人軍団”と称されてきた。女子は伝説的プレーヤー、ミレーヤ・ルイスを擁し、オリンピックでは1992年のバルセロナ大会から2000年シドニー大会まで3大会連続で金メダルを獲得した実績を持つ。一方の男子も90年代は国際大会で上位成績をあげ、2010年の世界選手権では準優勝。その立役者となったのがレアルやレオンだった。

 

 だが、翌2011年のワールドカップバレーで5位になって以降、主要国際大会におけるキューバ男子は下降線をたどる。男子は2016年リオデジャネイロオリンピックこそ出場を果たしているが、11位に終わっている。そこにはレアルやレオンといった世界トップクラスのアタッカーたちの離脱が要因の一つであることは想像に容易い。社会主義国キューバの事情もあるのだろう、レアルはブラジル、レオンはポーランドへの帰化を選択したのだ。

 

 そうして2019年は、国際バレーボール連盟の規定である一定の期間をクリアした2人にとって“代表入り解禁”の年となったのである。

2010年世界選手権で準優勝に輝いたキューバ男子

ブラジル男子の攻撃に厚みが増した、レアルの加入

 

 先に代表デビューを果たしたのはレアルだった。ブラジル男子の一員として、5月から7月にかけて行われた2019ネーションズリーグでプレーした。

 

 5月の予選ラウンド東京大会の時点では、ブラジル男子のレナン・ダルゾット監督もレアルについて「まだ合流して日も浅いので、特にディフェンスシステムに関しては、今後も取り組んでいく必要がある」と語っていた。それでも徐々にチームにフィットし、リカルド・ソウザ(ルカレリ)の対角として不動のレギュラーに定着。最高到達点361センチから繰り出されるスパイクやサーブはもちろん、ネットの上でまるごと両腕が飛び出るようなブロックは他を圧倒した。

 

 そのレアルについて、ワールドカップバレー2019でキャプテンのブルーノ・レゼンデに印象を聞いた。ブルーノとレアルは2010年世界選手権では決勝を争ったものどうしであり、イタリア・セリエAの強豪ルーベでは2018/19シーズンからチームメイトとして戦っている。

 

 「(レアルは)アメージングな選手です。世界のベストプレーヤーの一人。代表でもハイレベルなプレーをしてくれていますし、それはルーベで一緒になる以前に対戦していたころから感じていたとおり。また人間性も素晴らしいです。今は代表チームをよりパーフェクトなものにしてくれている存在です」(ブルーノ)

 

 結果として、ブラジルはワールドカップバレーを制した。代名詞の高速立体コンビバレーにおける攻撃のカードとして、1シーズンを戦い抜いたレアル。次に遂行するミッションは、オリンピックでのメダル獲得だ。

Yoandy Leal<イオアンディ・レアル/身長202㎝/最高到達点361㎝/アウトサイドヒッター>
Wilfredo Leon<ウィルフレド・レオン/身長202㎝/最高到達点350㎝/アウトサイドヒッター>

時速130キロ超の弾丸サーブを放つ“地上最強アタッカー”レオン

 

 同じく、オリンピックでのメダル獲得をにらむポーランド男子も強力な新兵器を加えた。それが、レオンだ。

 

 14歳でキューバ男子に選出されたレオンは鳥人軍団の名を象徴するような跳躍力と迫力満点のスパイクを武器に、またたくまにその名を世界のバレーボールシーンで轟かせた。2014年以降は母国のクラブを離れ、やがてポーランドの市民権を獲得してから代表の合宿に参加する様子などは報じられていたが、実際に登録されたのは2019年度。

 

 メンバーが発表された際には、自身のSNS上で「一員になれたことを誇りに思います」とレオン。やがて7月に正式に“解禁”となり、同月27日と28日に地元で行われたオランダ男子との親善試合で、ついに紅白色のユニフォームを着てコートに立った。

 

 その後の東京2020オリンピック世界大陸間予選を通して出場機会を増やしていき、ヨーロッパ選手権を戦ったのちにシーズンを締めくくるワールドカップバレーへ。大会では、ベストアウトサイドヒッターに輝く活躍ぶりだった。

 

 ただ、否応がなしにメディアが集まることへの配慮からか、チーム側の以降によりレオンが取材の場に登場することは皆無に等しかった。かといって、それは特別扱いの類ではなく、例えばチームメイトにちょっかいを出される姿からは、仲の良さが十分に感じられた。

 

 ワールドカップバレー後も、所属するセリエAのペルージャでは、ポーランド男子のフィタル・ヘイネン監督が指揮をとっていることは好材料だ。ヘイネン監督も「代表にとって有益なこと」と明言し、「クラブシーズンを通して、レオンを含めた構想を練ることができる」とにんまり。世界選手権2連覇中の王者に加わった“地上最強アタッカー”。それは他国にとって脅威以外の何物でもないだろう。

Osmany Juantorena<オスマニー・ユアントレーナ/身長200㎝/最高到達点370㎝/アウトサイドヒッター>

今なおトップレベルのパフォーマンスを放つユアントレーナとシモン

 

 レアルやレオンのように、帰化という道を選択した元キューバ代表といえば、現在イタリア男子のエースとして活躍するオスマニー・ユアントレーナもその一人。2019年は代表として参加する大会を絞っていたが、それでも8月の東京2020オリンピック大陸間予選では気迫満点のパフォーマンスでチームを牽引。セルビアとの最終戦ではマッチポイントから最後は自らのアタックで、東京行きの切符をつかみとってみせた。

 

 ユアントレーナ自身も長らく世界のトッププレーヤーとして名を馳せ、クラブチームではセリエAのトレンティーノでプレーした2009/10シーズンから2012/13シーズンの間に世界クラブ選手権4連覇の偉業を達成(うち3大会でMVP)。2015/16シーズンからはルーベに入団し、キャプテンを務めた2019/20シーズンは自身5度目の世界クラブ選手権制覇を果たした。

 

 また、そのルーベにはユアントレーナやレアルのほか、もう一人の“鳥人”がいる。身長208センチのミドルブロッカー、ロベルランディ・シモンだ。今でこそ最高到達点は358センチとなっているが、かつては380センチに到達したほど。代表では2010年世界選手権以降プレーすることはなかったが、2019年の北中米選手権で復帰。そうして今年1月の東京2020オリンピック大陸間予選では全3試合に出場する。周りは20歳半ばまでの選手が並ぶ中、存在感が際立った。

 

 結果として2大会連続のオリンピック出場は叶わなかったが、アルゼンチンのウェブサイトの取材でシモンは「このチームにはまだまだ多くの経験が必要です。それは試合だけでなく、国際レベルで戦うための日頃からの基礎的な部分も、です。今は何とも言えませんが、もし2024年のパリオリンピックに向けて私が代表にいるならば、できる限りのチームの準備への手助けをします」と語った。現在32歳のシモンは、その大きな体に膨大な量の経験値を詰め込み、次なる野望を見据えている。

 

 レアル、レオン、ユアントレーナ、シモン。2019年はカリブ海にルーツを持つ選手たちは、それぞれ国を違えながらも代表を背負い、国際舞台で戦った。当事者たちは、このことをどう思っているのか? ワールドカップバレーのポーランド戦後の記者会見で、レアルに質問をぶつけてみた。

 

 「特別な思いがあります。レオンとはキューバで何年も一緒に戦っていましたから。ですが今、彼はポーランド、私はブラジルに帰化しました。私自身はブラジル代表としてプレーすることをいつもうれしく思っていますし、お互いに違う国の代表として戦えることをほんとうにうれしく感じます」(レアル)

 

 今後ますます、彼らの競演は国際舞台で見られることだろう。ネットを挟んで繰り広げられる空中戦に酔いしれたい。

Robertlandy Simon<ロベルランディ・シモン/身長208㎝/最高到達点358㎝/ミドルブロッカー>

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<画:大嶽あおき>

著者紹介:GUCII(グッチー/坂口功将)。2016年春入社。月バレ編集部に配属後、本誌で『WORLD VOLLEYBALL NEWSPAPER』、「月バレ.com」では『WEEKLY SERIE A』を担当。2018年は世界選手権の男女両ファイナルを取材した唯一の日本人記者という称号を獲得し、昨年はネーションズリーグ男子ファイナルラウンドの取材のため単身でシカゴへ。だが、英語が特に話せるわけではない。

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