2008年に北京オリンピックへ出場した時は22歳。
あれから15年が過ぎ、清水邦広は今年37歳になる。18年には全治12ヶ月の大けがに見舞われ、現役引退も決意しながら、見事なカムバックを果たし19年からは再び日本代表へ。同じ年で北京オリンピックからパナソニックパンサーズ、日本代表でも中心選手として活躍してきた福澤達哉氏(21年に引退)と共に同年のワールドカップにも出場した。
清水いわく「ちゃんとウォームアップをしなくても簡単に跳べた」10代や20代前半のころは、どんなブロックでも自分が跳べさえすれば上から打てる自信はあった。だが選手生命をも脅かす大けがから復帰を果たした今、かつての全盛期と比べればジャンプ力は落ちたが、それも新たな個性としてプラスにとらえている。
「(ケガをする前の)もとの身体に戻らないのは、自分自身がいちばん自覚しています。よかった残像を追いかけても戻ることはないし、ジャンプ力が戻ることも、身体のキレがよくなることもない。だったら、今の自分が何を武器にするか、と考えたらブロックの上から打てなくても、当てて出したり、いないところに落としたり、違う持ち味があるよな、と思うようになりました」
ケガをする前の垂直跳びは90cmも軽々クリアし、調子がいい時は1m近く跳んでいた。だが当然、ケガの後は変わる。年齢も重ねた今は「70cmぐらいなので20cmジャンプ力が落ちた」というが、技術の引き出しは着実に増えた。
「フェイントとかショット、それこそ右手で打ったりとか、泥臭い決め方になっているんですけど、僕にとってはそれもありかな、と。今までだったらドーン、ドドーンと打てていたから、見ている人もすごく印象に残るようなスパイクばかり目指して打っていたんですけど、ブロックアウトでも、ドドーンと決めるのも同じ1点なので、それなら省エネでちゃんと決めるほうが僕の現役は長くなるかな、と思ったんです。でもそれだけでは絶対決まらなくなるので、強く打たなきゃいけない時は強く打つ、空いているところがあれば落とす、そういう使い分けは心がけてプレーしています」
復帰を果たして以後、常にヒザの状態がよかったかと言えば決してそうではない。北京オリンピック以来、2大会ぶりに出場した東京オリンピックの最中もヒザの状態は悪く、毎日治療しながら練習して、コートに立った。今でこそ「ヒザは相当ボロボロだった」と笑うが、数は少なくとも清水がオリンピックの舞台で放った一本は日本代表の選手たちにはもちろんだが、不屈の精神でたどり着いた末に放った一本一本は、大きな勇気を与えた。
そして新たな境地を迎えた「今」を楽しんでいるのは、他ならぬ清水自身でもある。
「30歳を超えて、年齢を重ねれば重ねるほどバレーボールが楽しいという思いが強くなりました。若いころは感覚でやっていただけなので、人のプレーを見て『自分もこんなプレーがしてみたい』と思っていても技術が伴わないから、できなかったんです。でも今はいろんな技が増えて、たとえばクビアクのうまいプレーを見て『こんなうまいプレーがあるんや、俺もやってみよう』と思ってチャレンジするとたまにできたりするんですよ。そうするとこの年齢でも成長できる、上達できるという思いが強くなる。だから、今のほうがバレーボールが楽しいんです」
[ 前編 ] 清水邦広、5年前に負った絶望的故障からの「奇跡のカムバック」
今味わう、バレーボールの新たな楽しさ。それこそがまさに、清水のモチベーションでもある。盟友の福澤は東京2020オリンピック出場が叶わず、21年7月に引退を表明した。福澤に限らず国内外、男女を問わずオリンピックを機に現役生活へ区切りをつける選手も少なくないなか、清水は東京2020オリンピックを終えたあと、代表引退を表明したが、現役選手としての活動にはむしろ意欲を燃やしている。
「単純に、今やめるのはもったいない、と思うし、まだまだうまくなるという感覚もあります。“あります”というよりも“なりたい”かな。こればっかりは願望になりますが、うまくなりたいし、若い選手に負けたくない。そういう気持ちは常にあるので、今は若くていい選手がたくさん出てきたけれど、僕も同じ土俵で戦えるように頑張ってやり続けられたらいいな、って」
1人の選手である以上、試合に出たい。しかも出るだけでなく常に納得いくパフォーマンスを見せて、勝ちたい。そう思うのは当然だ。だが年齢や経験を重ねた今、競技を続けるうえでのモチベーションは自分の結果やパフォーマンスだけでなく、周囲にも向けられている。
「もう僕も30代後半、サラリーマンや仕事をしている方々にあてはめたらいろんなことがいちばんしんどい時期だと思うんです。でもそこで『清水がこれだけ頑張っているんだから、俺も頑張らないとあかん』と思われるような存在になりたい、というのはありますね。同世代の元気の源になれたらうれしいし、そもそも(北京オリンピックにも出場した堺ブレイザーズの)松本(慶彦)さんと比べたら、僕なんてまだまだ若手ですから(笑)」
気持ちを奮い立たせるだけでなく、もちろん身体へのメンテナンスも重要だ。日々のトレーニングやストレッチ、トレーナーによるケアや、医師の診断を受けながらヒザの状態には常に気を配り、プレー時にはヒザを安定させ「ヒザがグラグラせず思い切りプレーができる」という安心感を得るためにサポーターをつけて臨む。それでも時折、ブロックがそろった状況からハイセットを打つ時には、苦い記憶もよぎる。
「同じシチュエーションだといまだにドキドキすることもあります。前もこうやってここにボールが上がってきて、着地失敗したな、と思いながらスパイクを打つこともありますよ。あの時は本当に調子がよくて、むしろよすぎたから空中で余計な動きを入れちゃった。ある程度調子が悪いほうが僕は調子がいいのかな、って思いますね(笑)」
学生時代からもともとケガが多かった選手生活ではあるが、18年の大けがで気づかされたことはまだまだある。バレーボールに限らず、清水と同時期にも多くの選手が前十字じん帯損傷や断裂の手術や治療で入院し、共にリハビリを行う中で「清水さんが頑張っている姿を見て、自分も頑張れます」という言葉が励みになる一方、自身の経験をもっと広く伝えられることがケガの予防につながることもあるのではないか、と考えるようになった。
特に、自身の中でも苦い教訓として残るのが大学時代の経験だ。
「大学1年の時にめちゃめちゃひどい(足関節)ねんざをしたんです。その時はレギュラーじゃなかったけど、調子がよかったので試合に出る機会を得て、その時も調子がよすぎたことがマイナスになってねんざしてしまった。痛いし、腫れているし、プレーできる状態じゃないということを頭ではわかっているんですよ。でもその時は『ここで頑張ればレギュラーを取れるかもしれない』という思いしかなかったから、痛いことも腫れているのも言わず、無理やりプレーしたんです。案の定、足首はパンパンに腫れて、その後もプレーできないわけではなかったけれど、1年以上痛みが残りました。あの時『レギュラーになりたい』という思いだけで突っ走るんじゃなく、すぐに治療をしてサポーターなどを活用していたら、たぶんこんなことにはならなかったですよね」
足関節のじん帯は切れており、不安定なまま。変形し、見た目でわかるほどボコっと骨が飛び出した足首を指差しながら、将来ある選手たち、そして育成年代の指導者に向け、清水ならではの提言を示す。
「選手だけではケガの見極めってすごく難しい。この状態なら大丈夫、というケガと、これはほんまにやったらダメ、という線引きがありますよね。そこは選手が判断するのではなく、ドクターとかトレーナー、コーチ、いろんな人の意見を聞いてやるかやらないかを判断すべき。実際僕は痛くてもやるんだ、という一点張りでこうなったので、もっと選択肢を与えてあげることが必要だな、と思いますね。何より、ケガをした選手で(試合に)出るか、出ないか迷っている時は僕の足首の写真を見て『どうしようかな』と悩んでください。この足首になりたくない
なら、絶対、やめたほうがいいと僕は言いますよ(笑)」
2023年、8月には37歳になる。気力は十分、もっとうまくなりたい、とモチベーションも完璧で、身体さえ思い通りに動いてくれるならばまだまだいくらでも現役選手であり続けたい。これまでは「オリンピック出場」を掲げてきたが、あえて目標やゴールを決め、掲げるのはやめた。
「この先、引退するまでケガをしないことはありえないし、もしかしたらまた前十字じん帯損傷、断裂というケガをするしれない。未来のことはわからないですよね。でも、予防することはできるから、サポーターをつけるのも僕にとっては予防の一つです。できるだけ長くバレーボールをやり続けたいし、バレーボール選手であり続けたいから、最後のゴールを目指すんじゃなく次の1年、また次の1年、と目先の目標だけ持って、今年よりも来年はもっとパフォーマンスを上げて、優勝してMVPを取れるぐらいの実力を兼ね備えた選手になれるように。まだまだもっと、頑張ります」
バレーボールは実に奥深いスポーツだ。探究すればするほど、やりたいことが増え、チャレンジすればできることも増えていく。初めてバレーボールを手にしたころと同じように、毎日ワクワク、胸躍らせながら今日より明日、と清水邦広は前に向かって走り続ける。
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これまでつけてきたもの同様にしっかりベルトで固定されるのでフィット感、安定感がありますが、新しくなったファンクショナルステーが曲げ伸ばしもしやすく、これまで以上のフィット感があります。僕には最適で、めちゃくちゃいいです。まだまだ現役生活は長く続くので、これからもお世話になります!
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